(13)


深い闇が、どこまでも続く。

いったい、いつまで落ちつづけるのか。それより、もう何日落ちつづけているのか、それさ

えも定かではない。

八経ヶ岳の頂上から飛び下りた小角は、それから延々、空中を降り続けていた。もう、上下

も左右も時間の流れすらも、つかめない。しかし、とりあえず、地面に激突するでもなく来

ているということは、うまく霊穴に入れたのだろうか?

(それにしても、いつになったら無間地獄に着くんだ)

小角は少々不安になった。

無間地獄は、八大地獄の最下位にある。そこに行ったらどうすればいいのか、それもよくわ

からないが、それ以前に、いったい無事着くのだろうかと心配になった。もしかすると、本

当はただ普通に死んだだけで、霊穴でも何でもなく、全部、死後の夢なのかもしれないし…

…。例えここが霊穴だとしても、うまく前鬼を見付けだせるのかわからない。もっとよく後


鬼に聞いてから降りれば良かったのだが、その時はその時で、飛び下りる恐怖が先に立ち、

とても先の心配をしているどころではなかった。

(おや……?)

下の方に、かすかな光が見える。明るいというほどでもないが、ぼんやり霞んだような風景

が見えた。と、思ったとたん

「うわっ」

気がつくと、地面に放り出されている。

「痛たたた……」

腰を押さえて、彼はようやく立ち上がった。見回すと、茫漠たる荒れ地が広がっている。

(ここが……無間地獄なのか……?)

見渡す限り、何もない。ただ、低く曇った空の下に、草一本ないひび割れた荒野が地平線ま

で続いている。

(いったい、これからどうすればいいんだ?)

途方に暮れて突っ立っていると、突然、背後に気配を感じた。思わずとびのきながら振り向

くと、小角より二周りも大きな鬼神が3人立っている。鉾を持ち、青黒い肌を同じように光

らせた彼らは、小角を薄気味悪い目付きで鋭く見下ろしていた。

「貴様が……閻魔天様の真言を誦して降りてきたという人間か」

真ん中の鬼神が言っている。

何で知っているんだ、と小角は一瞬思ったが、ここは地獄で相手は鬼卒だ。何でもアリなの

かもしれない。それにしても、同じ鬼神でも前鬼とはかなり違う。割れた鐘を叩くような耳

障りな声だ。彼らはうさん臭気に順番にジロジロ小角を眺めると、「用件は?」と言った。

「前鬼という…鬼神を連れ戻しに」

精一杯落ち着いて、小角はそれだけ答えた。そのとたん、鬼神たちの目に青光りのする炎の

ような気が浮かんでいる。反射的に、小角は身構えた。素手で何が出来るというわけでもな

いが、とにかくこの場をどうにかしなければならない。武官でないとはいえ、子供の頃か

ら、官吏のたしなみで一通りの武術は習っている。そんなものが何の役に立つのかとも思う

が、山頂から飛び下りて以来、とりあえず恐怖は棄てていた。

「貴様……」

と鬼神たちが口々に怒鳴った。

「寿命でもないのに無断で獄界に立ち入ったうえ、罰せられた鬼を渡せだと?!」

「本来なら最初にズタズタにされるところを、閻魔天様の真言を受持しているから、丁寧に

扱ってやれば…」

「二度と、人間界の土は踏めぬぞ!」

「いや、三界のどこにも転生できぬよう魂を引き裂いてくれるわ!!」

奇声を発して、三人は同時に鉾を突き出し、襲いかかった。

「く…」

すんでのところで一撃目をかわすと、すぐに別の鉾が突っ込んでくる。

(こんな所で、前鬼との特訓をおさらいするとはな…)

横に跳び、後ろに跳び、鬼の背後に避けて逃げ回るうちに、いつの間にか服はますます破

れ、全身にかすった切り傷からは血が吹き出している。息が切れ、目がくらむ。手足がどん

どん重くなり、動きが鈍くなった。

「いつまで、そうしているつもりだ?!」

鬼神が、嘲笑っている。

(確かに…このままじゃ、殺されるのを待つだけだ)

しかし、どうすればいいのか、わからない。わからないが、ここで死ぬわけにはいかない。

(前鬼を連れ帰るまでは……)

賭けだ。

思った瞬間、小角は胸の前に手印を結んだ。子供の頃、はじめて前鬼に出会った時に教えて

もらった不動明王の真言。あの時は、二人ともまだ子供だった。それでも岩を砕けたのだ。

「ナウマクサンマンダ……」

鬼神の一人が、たじろいだ。けれど、後の二人が飛び込んでくる。避けなければ、串刺し

だ。それでも小角は動かずに先を念じた。

「……バザラダンカン」

どうせ、このままでは、いずれよけきれずに殺される。こうなってはじめて、前に進むこと

だけを考えた。一度、飛び下りた時に、恐怖を棄てた。そうして今は、前鬼に会うことだけ

を考えている。

「ナウマクサンマンダバザラダンカン」

もう一度、唱えた。何も起きない。鬼神が来る。それでも小角は動かない。ただ、誦して、

祈った。毘沙門天に10万回祈ったときのように。ただ無心に、誦した。

「ナウマクサンマンダバザラダンカン!!」

すると。

炎が、天から降ってきた、と、小角は思った。落雷のような炎の玉が小角を撃ち抜いてい

る。全身が炎熱に包まれた、と感じた瞬間、その熱と力が体内を巡り、指先まで宿った。

「カン−マン!」

不動明王を意味するサンスクリットを叫ぶと、印を結んだ指先から炎をともなった光が放た

れる。一瞬にして、二人の鬼神は火に包まれ、灰になって消し飛んだ。残った鬼神は唖然と

したが、それでも撃ちかかる。もう一度小角が叫ぶと、鬼神の動きはピタリと止まり、その

まま硬くなってボロボロ崩れた。

あまりのことに、ぜえぜえ息をきらしていた小角は、倒れるようにヒザと両手を地につけ

た。汗ばんだ瞳が、赤い。正気じゃないのが、自分でわかる。何かに、身体を乗っ取られて

いるようだ。その膨大な力に、精気を喰われている。

(でも……倒せた……)

前鬼がここにいるのもわかった。

(それに……)

身体の中にいる何かは、荒々しいが、禍々しくはない。正体は、おそらく不動明王の分霊

だ。小角の身体をヨリシロにして乗り移り、法力を発揮している。これを行なえるのが、呪

術者という……。

(呪力が……使えた……)

ここが地獄だからなのかもしれないが、とにかく呪力が戻っている。十年ぶりくらいかもし

れない。死を賭して降りてきたせいなのか、それとも、この二年の間、毎日毘沙門天の真言

を誦していたせいなのか。

(ただ……)

目眩がして、小角は地面に頭をつけた。降臨した分霊の力が大きすぎて、使いこなせない。

自分の激しい息遣いだけが、辺りに響いている。

ところがそこへ、さっきの鬼神の十倍はある声が、降り落ちてきた。

「何者ぞ!!」

声は怒りに満ちている。

「人間ごときが獄界で鬼神を打ち殺し、好き放題とは……!!」

小角は、顔を上げた。

遠くから唸るような声が、地響きを連れて迫ってくる。目をこらすと、地平線が、うねるよ

うに動いていた。地面が盛り上がり、津波のように何かが押し寄せてくる。

(鬼神だ……)

鬼神の群れだ。雲をつくような数の鬼神が、有象無象にひしめいてこちらへ向かって雪崩れ

込んでくる。皆、黒光りする鉾を持ち、毒々しい目がギラギラとざわめいていた。

(ダメかもしれない……)

さすがにそう感じたとき、急に胸のあたりが熱くなった。

「?!」

宝珠だ。父の宝珠が、輝いている。

促されるように立ち上がり、もう、すぐそばまで迫っていた次の相手に対峙した。

次々に手印から炎を発し、飛び込んでくる鬼神を黒煙に変えながら、小角は、必死に真言を

唱えつづけた。目に入った汗が痛い。けれど、それをぬぐう暇がない。

疲労が、限界だった。それでも、襲いかかってくる鬼の数は無限のようで、一向に終わりが

ない。

(やはり……ダメか……)

一瞬、諦めかけたとき。また、宝珠が光った。

珠は、光り続けている。そのまま五色の輝きを同時に発して、小角の身体を包んだ。

(身体が……軽い?)

羽で包まれるような、柔らかい暖かさを感じる。吸い取られた気が戻ってくるようだ。と思

うと、まるでそれに呼ばれたように、今度は空から一条の金光が降ってきて、眼前に轟音と

ともに落下した。

「これは……」

地面に、見覚えのある見事な槍が突き刺さっている。毘沙門天の宝棒だった。

なぜ?と迷う間もなく小角はそれに手をかける。ところが

(重……?!)

触るのは二度目のはずだが、以前とは比べものならないほど、質量がある。まるで、あの時

は隠していた本性を現したように、巨大な力を示してピクリともしない。

「何なんだ…いったい……?!」

すると手を通し、冷たい槍身から声のようなものが伝わった。

『我は、宝珠の命に帰し、汝の元へ来た』

どうも、偉いのは小角の宝珠で、宝珠が小角を守って命じるから、俺も加勢に来てやった。

使えるものなら使ってみろ、ということらしい。

「何だか…試されてるな」

思うと妙に、力が湧いた。ムキになっているのかもしれないが、なにか引けない意地で、心

に、毘沙門天の真言を誦してみる、

(絶対……負けるものか!何があっても……私は前鬼を連れ戻してみせる!)

そして両手で思いっきり引き抜いた。

(抜けた?!)

動かなかった宝棒が、地面から離れた。右手に持ち替えて、振ってみる。重いが、振れない

ほどではない。もともと乗馬と棒術は、わりに得意なほうだ。

「ナウマクサンマンダボダナン…」

片手印を結びながら棒を真横に構える。そして、もう一度、毘沙門天の真言を唱えた。

「……ベイシラマンダヤソワカ!」

わっと、囲んでいた鬼神が吹き飛ぶ。宝棒を回して突き出すと、触れる前に、鬼の体は粉々

になった。

(使える……)

時間が経つにつれて、逆に動きがよくなっている。

自在、とまではいかないが、前よりも疲れない。戦っているうちに、何かがつかめてきてい

る。体力を使うのではなく、呪力を使う。込めるのは、手足の力ではなく、念なのだ。

高く、小角は飛び上がり、棒をくり出した。以前の半分以下の力で、何倍もの鬼神が吹き飛

んだ。

もう一度、不動明王の印を結び、その真言を唱えてみる。

今度は、その力が指図通りに操れる気がした。印にまとった炎が、大蛇のように身体に巻き

付く。それを襲いかかる鬼神に跳ね返そうと、小角は呪力をこめて左手を差し上げた。










遠くで、しきりに爆音が聞こえる。その度に、地平線の近くが赤く光るのだが、何が起こっ

ているのかまではわからない。

前鬼は、瞳だけをこらして赤い光を見つめた。体は、封印の壁に塗り込められて、手足どこ

ろか、首さえ自由に動かせない。両手を広げ、両足を開いた格好で壁にはり付けられたま

ま、その壁に、身体の半分以上がめり込んでいる。まるでレリーフのような姿で、もう、ど

のくらいそうしているのだろうか。

全身が信じられないような火傷で爛れ、気も狂いそうなほど痛む。それでも、死ねない。

もっとも、まだ死にたいわけではなかった。

(畜生……)

時折そうつぶやくのだが、逃れる術がわからぬまま、疲れている。気力も、いつまでもつの

かわからない。

それでもまだ、目をこらすぐらいの力は残っている。前鬼は、必死に前を見た。

(いったい…どうなってやがんだ……?)

光は、もう幾晩も続いている。時折、風にのって絶叫のような声も聞こえるが、毎度煮えた

銅汁を浴びせにくる一つ目の鬼神は、口をきかないので何もわからない。

ところがその晩、ふっと光がやんだ。同時に音も消えた。

再び、静寂が戻り、すべてが元に戻ったようだった。前鬼は落胆して、瞳を伏せた。特別な

何かを期待したわけじゃない。それでも、もしかしたら、と思ったのだ。動乱の中に、助か

るチャンスがあるかもしれない。

そこまで考えて、前鬼は、バカバカしさに自分で自分を嘲笑した。

どちらにせよ、ここへは鬼卒の他は誰も来ない。

(自力で脱出するしかねぇけど……)

その力がない。このまま嬲り殺されるのを待つだけかと思うと、時々悔しさのあまり気が狂

いそうになった。

「せめて……もう一度……会いてえなぁ…」

なんだか無性に、あの寝トボケた人間に会いたくなって、前鬼は、もう一度瞳を上げた。と

はいえ小角は、たぶん、こんな所までは来れないし、あの様子では後鬼もアテには出来な

い。そう考えると、どう転んでもこのまま死ぬしかないような気もした。

前鬼は、ぼんやり前を眺めている。

と……。

(………?)

光をなくしたはずの地平線から、何かが近付いてくる。赤い光ではない。今度は、金色の光

だ。

(後鬼?)

一瞬そう思ったが、やはり違う。後鬼の光は、あんなに大きくない。煌々と輝くそれは、清

浄で美しく、まるで地蔵菩薩か、如意輪観音の光輪のようだ。

光はどんどん近付いてくる。

すぐそこまでやってきて、そこではじめて、前鬼は呆然とした。

「お…小角…?おまえ…」

「やっと…見付けた。……こんなところにいたのか」

優しい瞳がこっちを見ている。これは本当に小角なのだろうか?しばらく会わない間に、ず

いぶん印象が変わった気がした。何かが、広く大きくなった。そんなことをいっぺんに考え

て、前鬼はぼうっとしていたが、はっとして、思わずボソッとつぶやいた。

「す……すげー格好……」

「いや、ちょっと色々あって」

「そっか……。けどよ。いよいよオレも、もぉダメだな。おめーのンな幻見るよーじゃ」

「幻じゃないよ」

「へへ…。幻が幻じゃねーって言いやがるし…」

「だから、本物なんだって」

軽く、小角の指先が前鬼の頬に触れた。頬を包み、親指で牙に触れ、小角はちょっと泣き笑

いのような顔をした。

「ひどい火傷だ。さぞ痛むだろうに」

その唇が無量寿経を唱えている。すると激しかった苦痛が、呆気ないほどきれいに消えた。

「え……?おまえ……?」

同時に、小角の身体から光が消えて、元の姿が現れている。

「な?な?何だよ?!その格好!!」

「悪かったな!ボロボロで!!だけど、仕方ないだろ。ここに来るまでが散々で……」

キョトンと、前鬼は見つめている。実は、さっきまで前鬼の目には、小角の姿が、天衣をま

とい宝冠をかぶり胸や腕をようらくで飾って宝棒を手にした明王に見えていたのだった。

それが気がつくと、燃え残りのような白妙が肩や腰にあるだけの凄惨な格好になっている。

体中が傷だらけで、正視に耐えないほどだ。

「お…おまえ……」

とたんに、前鬼は理解した。

「なんで、おまえがココにいるんだよ?!なんで、わざわざ最下位の地獄にまで来て、閻魔

天配下の鬼神どもと戦ったりしたんだよ?!タダじゃ済まねえかもしんねぇだろ?!」

「何でじゃないだろう。わざわざ死んで来てやったのに」

「死んだァ?!縁起でもねえこと言うな!!」

「私だって嫌なんだ!だから、早く帰ろう…」

「へ?おめぇ……何言って……」

小角が印を結んで真言をとなえ宝棒を一振りすると、前鬼を埋め込んでいた壁は、霧のよう

に消えた。

「おわっ」

急に支えを失って前のめりにヒザをついた身体が、そのまま地面に倒れ込む。全身が、硬直

して動かない。長いこと固められていたせいで、とても自分では動かせなかった。

「てめ〜もちっとマシな助け方が………」

「これ、持ってなさい」

「え?」

投げ出された鬼神の手に、宝珠が乗った。

頭の上で、澄んだ声がする。小角の無量寿経だ。温かな手の平が、背を撫でるのがわかる。

ぽぅっと光がともるようなこの温もりが、前鬼は好きだった。初めて、小角にケガを治して

もらった時もちょうどこんな感じだった気がする。黒首に切りつけられて青く腫れた傷口

を、小角はもっと小さな手で、同じように治してくれた。

「大丈夫か?」

「あ?ああ……」

宝珠を握ったままようやく起き上がって、前鬼は改めて珠と目の前の彼を見比べた。

「おまえ……小角だよな」

「他に何に見えるんだ?」

「なんで……こんな所まで来たんだよ?それに…その力……」

「一言では説明できん」

とにかく大変だった、と小角は笑った。

「とりあえず、ここを出よう」

「出るって、どうやってだよ?」

「おまえ、知らないのか?!」

「知らねぇ…。連れてこられた時はいつの間にやら来てたし…だいたいこんな所に出口あん

のか?」

「それは……困ったな。……あ」

やや動揺して辺りを見回していた小角が、急に黙った。つられて前鬼も振り向いている。そ

して、彼も黙った。

「………」

いつの間にか、少し離れた所に黒の天衣に身を包んだ美麗な天神がいる。長い黒髪に天冠を

かぶり、頂点にドクロを飾った錫杖を手にヒザをそろえて水牛に座っている。姿は美しいの

に、何かが恐ろしい。瞳と気配に底のない恐怖を秘めた背後には、18人の将官と数えきれ

ぬほどの鬼卒を従えていた。

「閻魔天………」

前鬼がつぶやくと、天神は水牛を降り、錫杖を持ったまま一人こちらに向かって歩いてき

た。

「そなたが、役小角か…」

案外に透明感のある声だ。小角の前で立ち止まると、閻魔天は恐ろしい目付きで、じっと彼

を見下ろした。

「なにゆえに、我が獄界で力をふるい鬼卒を殺した?」

「襲われて、仕方なく」

「そなたが持つは、毘沙門天の宝棒と、金剛手菩薩の宝珠ぞ。なぜ所持しておる」

「存じません。ただ、宝珠は父の形見でした」

「金剛手菩薩だぁ?そりゃ、八大菩薩の一人で、大日如来の側近だぜ?すっげー偉い奴だ」

前鬼が隣で耳打ちしている。小角も内心驚いたが、努めて冷静に、問われたことだけ答え

た。

「ここへ参ったは、前鬼を現世に連れ戻すためと聞いた。まことか」

「はい」

「なぜだ?その鬼は、罪を犯して罰せられている」

「私は、そうは思いません」

「それは、そなたの言い分だ。あくまで前鬼は渡せぬ。と、我が言えばどうする?」

「ここで、戦います」

驚いた前鬼の視線が、小角をたどっている。けれど閻魔天は、無表情に言葉を返した。

「そのようなことをすれば、そなたの魂は無に帰す」

「それでも……」

と小角は言った。まっすぐに見上げる、はっきりした声音だった。

「それでも、私はかまいません。前鬼が救えるのなら」

獄界の静けさが、辺りをおおう。閻魔天が黙ってしまったので、小角も何も言わない。二人

の視線だけが、互いに相手を射ている。

小角を見つめながら、変わった男だ、と閻魔天は思った。人間は必ず、自分を見ると怖れす

くむ。悪人でなくても、人は皆、自分を恐れるものだ。そのうえ今も、魂の死を宣告されて

いる。なのに、

(不思議な瞳だ)

負けを確信しているのに、諦めていない。己の死を確信しているのに、尚、生きている。

(何なのだ?この者は……)

けれど、何か言う前に、それまで唖然としていた前鬼が騒ぎだした。

「おま……何言ってやがんだよ?!バーロー!!取り消せ!!」

「おまえは黙ってなさい。前鬼」

「てめーが殺されたら、なんにもなんねぇだろ?!」

「おまえが殺されても、なんにもならん。何のために私がこんな所まで来たと思ってるん

だ」

「それは………」

ところが、その時、

「もう、そのへんにしておけ」

「あぁ?誰だ?!」

言いかけた前鬼を、突然、遮った者がいる。閻魔天ではない、もっと低い声だ。一斉に声の

した方に視線をやると、鬼卒をかきわけ、大股に一人の天神がこちらにやってくる。短い髪

に簡素な天冠をつけ、甲冑をまとった武人。それを見ると、前鬼は愕然とした。

「てめ……毘沙門天のクソジジイ!!!」

「その口のききよう。獄界で責めを受けても直らぬようだな」

言っている天神の姿は、人間ならば小角より少し年上ぐらいの青年だ。見目は美しいが、

男っぽい武官にみえる。彼は前鬼を軽くいなし、黙って立っている閻魔天に並んだ。

「そなたの預かる獄界を騒がせたこと、深くお詫びする。その上といっては失礼だが……も

とはといえば、私が処罰すべき鬼神から起こったこと。ここは私に免じて、この裁き、譲っ

てはくれまいか」

閻魔天はさっきから黙ったままだ。毘沙門天は、重ねて頼んでいる。

不意に、獄界統治者の冷たく恐ろしい瞳が、ふっと和らいだ。柔和になると麗人に見える口

許で、彼は言った。

「帝釈天四天王にして我と同じ十二天のそなたが、わざわざ出向いてくるとは……。よい、

この二人を連れてゆくがいい。消えた鬼神はどこぞに転生する。鬼卒は補充すればよい。た

だ……後で子細は伺おう」












配下を連れて、閻魔天は去った。

あとに残った毘沙門天が、こちらをじっと見据えている。地面に腰を落とした前鬼の背を支

え、隣に片膝をついていた小角は、そのまま天神を見上げた。

いったい獄界に来てから、様々なことが一度に起こり過ぎて、整理がつかない。ただ一つわ

かるのは、この天神が発端で、今、自分がここにいるということだ。閻魔天から救っても

らったことには感謝したいが、いまひとつ理屈がはっきりしない。

けれど武人姿の天神は、そんなことにはおかまいなく一方的な口振りで問い掛けた。

「おまえの獄界での行動、一部始終を見せてもらった。そのうえで、一つ聞こう」

「………」

「身の危険を犯してまで、この獄界に入り込み、閻魔天の鬼卒を殺めた理由は何だ?」

「ここへ来てから何度も申し上げた通り……前鬼のためです」

「まこと、それだけか?己の興味本位や、特別な呪力を得るためではないのか?」

「いいえ。ただ、それだけです。そうでなければ、呪術を使おうとは思わなかった……」

ちょっとの間、毘沙門天は黙っていた。それから彼は、ほがらかに大笑した。

「わかった。獄界でのことは不問にする。そのうえで、おまえに前鬼を預けることにする」

「え?」

「お…おいっ」

小角は呆気にとられた顔をしている。隣で前鬼は慌てた。

「コラ!ちょっと待て!なに勝手なこと言ってやがんだ?!オレはてめぇのおかげで死罪に

なったんだぜ?!」

天神の表情が、一瞬硬くなる。しかし、特にそれ以上の感情も見せずに、事務的な口調で続

けた。

「私は、死罪などと命じた覚えはない。ただ、ここで受けた責苦は、おまえが前世で犯した

罪の償いだ。しかし、小角のおまえに対する心と、おまえのために十万回真言を誦した功徳

により軽減された。よって今夜の刑をもって、一度終わりとする」

「はぁ?」

「だが、おまえが天界の宝物殿より錫杖を盗み出したことは、罰するに値する。天界は追放

だ。護法の位を剥奪し、人間界に落とすことにする」

「な?……何言ってやがる」

「言った通り、話はそれだけだ」

「全っ然、話わかんねーぞ!!マジメに説明しやがれ!!」

「前鬼、おまえは先に戻っておれ。私は、もう少し小角に用がある」

「てめぇ待ちやがれ……!?」

つかみかかろうとした前鬼の姿が、毘沙門天の喉元で、すうっと消えた。どうやら無理矢

理、人間界に送り返してしまったらしい。

「さて……」

と天神は、ちょっと唖然としている小角に向き直った。

「おまえには、まだ聞きたいことがある」

「私に……?何か……?」

「獄界での呪術、見事であった。あれほどの呪力を使いこなしたといい、後鬼を呼び出した

ことも、羅鬼の封印を返したことも……見事である。だが、おまえは……前鬼を救う以外、

呪術を使う気はないと、言った。なぜだ」

「父母のためです…。それに…私はやはり、人間でいたかった…」

「では、官吏でありながら務めを嫌う理由は何だ?」

「それは……」

一瞬、言い淀んだ唇が、正直に言葉を吐いた。

「逃げて……いるのかもしれません」

「逃げる?」

毘沙門天は、不可解な表情で視線を落としている。

「死人ばかりの国にまで来るおまえが?」

「死人など、怖くはありません。そんなものは、現世にだって道端にゴロゴロしている。

皆、病気や飢えで死んだ人達です。でも私も…朝廷のために、人々に労役を命じて困窮に追

いやる一人であって………それが、嫌でした。かといって前鬼の言うように身分も勤めも棄

てて、呪術修行に打ち込むのには家族が気になり…自分でも怖い…。それに、獄界では成行

きで使えたものの、実際、人間界で術など、使えるのかどうかもわからない。だから、ただ

逃げているのかもしれません」

しばらく、天神は何も言わなかった。何も言わずに小角を眺め、何事か考えているらしかっ

た。それから、おもむろに

「では…」

と毘沙門天は告げた。

「おまえに、一つ、真言を受持させる」

「え?」

「不動明王の真言のような破壊咒ではなく、おまえの望むような、多くの者を救える咒だ。

だが、それを使えば、おまえは母と弟を棄てることになるやもしれぬ。また、逆に他人を傷

つけることにもなるやもしれぬ。…………どう使うのか、それとも、果たして使うことがで

きるのか、それはおまえに任せる。ただ、多くを救うチャンスをやろう」

呆然としている小角の額を、十二天の一人である毘沙門天が、指で突いた。

「…………!?」

額に、鋭いクサビで打たれたような痛みが走る。同時に、真言が、体内に流れ込んできた。

「……これ…は……?」

「孔雀王咒という。まだ、おまえの国で使える者はおるまい」

武神は指を離し、頼もし気に笑った。

「それから……見事に使いこなしてくれた礼だ。その宝棒も、一緒に持ってゆくがよい」

「これを?」

小角は、手許を見つめた。

「宝棒も、おまえを所有者と認めている。また、おまえが所持していた宝珠は、閻魔天が

言った通り金剛手菩薩様のものだ。あの方は、時々、おまえの生家の近く……吉野の金峯山

を、蔵王権現のお姿でお巡りになる。その時にいただいた物であろう。大切にするがいい」

「……あの宝珠が……」

それから……と、毘沙門天は、やや厳しい視線に戻って言った。

「おまえの思うように、天界には少々問題が起こっている。私もそれで、なかなか下界へは

降りれない。前鬼は…その事に深く関わっているのだが…これは本人も知らぬことだ。今の

おまえにすべてを明かすわけにはいかないが……とにかく、前鬼を頼む」

それだけ言うと、慌ただしく毘沙門天の姿が消え、「では送ろう」とだけ声がした。









気がつくと、小角は谷底に倒れていた。

顔をあげると、八経ヶ岳の峯がそびえている。長い夢から覚めたように、はるか頭上にある

頂上付近を見上げた。確かに自分は、あそこから飛び下りて、ここに落ちたのだ。

(生きている……?)

前鬼を地獄に迎えに行って……戻ってきた?

(夢……だったのではあるまいな)

しかし右手には、前鬼が最初に持ってきたあの質素な形の錫杖が握られている。胸に手を当

てると宝珠はなくなっていた。

(前鬼は…?どこへ行ったんだ?)

身を起こし、小角は辺りを見回した。周囲にはいくつも、同じような峯が並んでおり、いっ

たい、どこから出て帰ればよいのかわからない。

(とにかく……都に戻るか…)

いったん、家へ帰ろう…。そう思って立ち上がると、ひどい痛みがあちこちを貫いている。

よく見ると、全身は傷だらけだった。

「やれやれ……。これで地獄旅行が、すべて夢じゃないことを祈るよ…」

錫杖にすがるように、杖代わりにつきながら、小角はとりあえず峯の一つを上り始めた。








(14)


鎌足が出ていってから、二ヶ月半以上も過ぎた。

その間、中大兄は雑事に追われるままに日を送っていたが、とうとう気がつけば、今年の暦

もあと残り二日になっている。

賀正行事の準備も済んで一段落した今日は、もう晦日だ。天皇一行がまだ帰らないので朝廷

行事は気楽なものだが、その他のすべての実務を留守番役でこなすのは慌ただしいことこの

上ない。

(いったい、あの連中はいつまで遊んでいるのだ!)

連絡では、もう有間を出て難波までの途中にある武庫(むこ)の仮宮に移っているらしい。

正月には戻ってくるのだろうが、今年中に難波宮まで帰る気はなさそうだった。

(ったく……今度は、俺が遊びに出てやろうか)

ハラいせに子供っぽい冗談を考えながら、中大兄は、大急ぎで宮の庭を歩いている。これか

ら正殿で宴会があるのだが、その前に、皇太子宮の地下倉庫に寄って欲しいと、側近の一人

に呼ばれていた。どうも、倉庫で盗難があったらしいのだが、下手人は大臣の家の者だから

公にしないで欲しいという。とにかく捕らえてあるから、内々に来て欲しいと連絡を受け

た。

(なんだって俺が、温泉くんだりにほっつき歩いている臣下の家人の面倒など見てやらねば

ならぬ。だいたい、あいつらは、この年末の忙しいときにのうのうと……)

苛々と歩いている中大兄の瞳が、ふと、翳った。天皇の一行は、今頃、武庫にいる。その報

告と一緒に、駅馬の書状が届けてきた近況には、大錦冠の中臣様が御重体で……云々と、

あった。

(鎌足が……)

直前の顔色の悪さを思い出し、中大兄はどことなく心中が揺れた。

有間仮宮の門前で倒れていたのを大夫の一人が見つけて運んだが、長く意識の戻らぬ容態が

続いて、その後もあまりおもわしくないらしい。

(だが、どうせもう……あいつは敵だ)

むしろ、帰ってこないほうがいいのかもしれない。帰ってきたらこの手で討たざるを得なく

なる……。

思い切るように、中大兄は、もっと足を速めた。冷たい風が顔を打ち、腰の剣が、うるさく

腿にぶつかっている。ほとんど駆け出しそうな勢いで皇太子宮に入ると、一階の隅から、地

階に向かう階段を一足とびに降りた。いつもは閉切りの、重い石の扉のカギが開いている。

扉を開けるやいなや、皇子は大声で怒鳴った。

「どこだ?罪人は?」

「こちらでございます」

奥のほうに、数人の男に囲まれて、身なりのよい黒髪の美しい女が独り座っている。中大兄

は、思わず拍子抜けした顔をした。

「なんだ、女か」

見れば捕らえて囲んでいるのは、自分の新しい側近たちばかりだ。彼は少々呆れて言った。

「なにも女一人に、大仰に騒ぐこともなかろうに。で?盗まれたものは何なのだ?このよう

な場所に、女の欲しがる物などあったのか?」

近付いて問いただすと、妙に艶かしい声が返った。

「ございますとも」

言いざま、女が伏せていた顔を上げ立ちあがる。中大兄は一瞬、虚をつかれた。なにか応答

が変だ。そのうえ女の美しい顔の真ん中には、珍しいほど大きな火傷の痕がある。口紅が、

ぐっと近付き囁いた。

「それは……あなた様ですわ」

「おい?!」

突然しなだれかかってきた体に、中大兄は、はっとした。その瞬間、冷たい光が、胸に迫

る。短刀を握った女が体ごとぶつかっていた。

「何をする!」

寸前で叩き落とし、彼は女の手首を片手でひねった。

「貴様、いったい……」

「ええい、悔しや!」

悶絶するような悲鳴を上げて、彼女は怒鳴った。それを合図にしたように、背後で次々と剣

を抜く音が響く。

「な……」

気付いた時には、囲まれている。そこでようやく、中大兄は、己のバカさ加減に愕然とし

た。

「なるほど…。そういうわけだったか」

この呼び出し自体、というより……新しい側近が増えたのも偶然ではなかったのだ。すべて

は、二ヶ月も前から用意周到に仕組まれていたものらしい。

「俺としたことが……とんだ失態だ」

無言で打ちかかってきた一人の正面に、彼はとっさに捕まえていた女を突き飛ばした。

ギャッと魂切るような声が響き、女の顔がまっぷたつになる。舌打ちした男の一人が再び飛

び込んでくる前に、中大兄は、すらりと己の剣を抜いた。

「フン、多勢に無勢は慣れている。その程度の腕で、簡単に俺が斬れると思うなよ」

間合いに踏み込み、低く腰を落として横に払うと、呆気なく目の前の一人が胴を斬られては

ねとんだ。こんな時のために、子供の頃から剣の稽古だけは欠かしたことがない。いった

い、いつ暗殺されるかわからない不穏な時勢の天皇候補に生まれたせいで、琴よりは武器の

扱いのほうがよほど上手かった。

後ろから斬り掛かってくるのを振り向きざまに払い、体勢を崩した相手の肩を袈裟斬りにす

る。横から突きを入れてくる剣を紙一重でかわして体を沈ませ、下から斜めに斬り上げた。

振り回すには、よほど力の要る両刃の長剣を、それでも皇子は軽々と操り無駄のない動き

で、あっという間に5人を倒している。残ったのは、二人だけだ。

「どうした?もう、来ないのか?」

間合いをとって正面からまっすぐ構えた中大兄に、残りの二人は出口を背にしてためらって

いる。と、いきなり一人が中大兄の顔をめがけ、剣を投げた。

「チッ」

それをよけた隙に、投げた男がそのまま素手で突っ込んでくる。男は皇子の腰のあたりに抱

きつくと、もう一人を振り返り、「早く!!」と叫んだ。残った男は剣を棄てて出口に向か

い、外に飛び出したかと思うと、石の扉を閉めている。

「おいっ待て!!」

中大兄は、持っていた剣を抱きついている男の背に突き通し、振り払って追った。扉はすで

に閉まっている。ようやくそこへ行き着くと、扉の向こうで、ガチャリ、と重い音が響い

た。

外から、錠を下ろしたのだ。

「おいっ開けろ!!貴様!!俺をこんな所に閉じ込めて、どうするつもりだ?!」

さすがに焦って石の扉を叩いたが、手が痛くなるだけで、音さえたいして響かない。と、後

ろで声がした。

「この手で…殺せなかったのが残念だ……」

最後に刺された男が、血走った瞳で床からじっと見上げている。死に引き込む怨霊のような

声を絞って、男は言った。

「本来なら…ここで息の根をとめてから、死体を焼くはずだったのに……」

「なに?」

皇子は思わず男に近付いた。

「俺を殺すつもりだったのだろう?貴様は何者だ?誰に頼まれた?!」

「我らは…代々蘇我氏に仕えていた者。入鹿様のために……蝦夷様のために……古人大兄皇

子様のために……おまえの悪政を懲らしてやりたかった」

「ふん。負け犬が何を言うか。俺が悪人なら、入鹿だって悪人だろう。おまえの蘇我氏だっ

て、皇族を何人も殺しているではないか」

「うるさい!それでもあの方たちは正々堂々としていたのだ。おまえのように陰で卑怯な手

を使い、暗殺するのとは違う!」

「そういうのはな、正々堂々ではなくて、バカというのだ。すぐバレる殺し方では暗殺とは

言わん」

「は…ははは!だから、見ろ、今度は貴様が暗殺されるのだ。ここでな」

「こんな所に閉じ込めたから何だというのだ。そのうち誰かがここを開ける」

「バカめ。本当は、殺してからのはずだったが……。今からこの宮は焼け落ちる」

一瞬、中大兄は息をのんだ。

「側近として入り込んだ仲間が、もうすぐ、ここに火をつける。閉じ込められたまま、おま

えは焼け死ぬのだ。蝦夷様のようにな!!」

「……………」

「丘に建った蘇我の宮殿は、壮麗で美しかった。それをおまえ達が灰にしたのだ。家人も焼

け死んだ。さっきの女の顔はな……その時に負った火傷だよ。おまえの死は、蘇我氏すべて

の意思であり、怨念なのだ。怨念で、おまえは死ぬのだよ。そう、世間も思うことになる」

断末魔の、引きつけたような笑いを残して、男は息絶えた。

血だまりの中に一人残った中大兄は、半ば呆然と見つめている。転がった死体と、目の前に

ふさがる重い扉とを。

なまぐさい血の臭いとともに、どこからか火のはぜる音が聞こえてくる気がした。

「くそ…!」

開かない扉を平手で殴って、中大兄は、あまりのことに臍をかんだ。

(こんなことで引っ掛けられるとは。間の抜けた話だ)

鎌足がいれば、事前に気付いたかもしれない。思わず、そう考えてから、舌打ちした。

(あいつが……やらせているのかもしれぬではないか)

重体などと誤報させて油断させておきながら、殺す手立てを謀っていたのかもしれない。

なんだか急にバカバカしくなって、中大兄は、その場に腰を下ろした。

(俺は……こんな所で死ぬのか?)

ホコリっぽい臭いのする低い天井を見上げて、中大兄は溜め息をついた。階上からギシギシ

と不穏な音がする。あまり広くも深くもない半石室だ。上が燃えれば、蒸し焼きか、それと

も天井が落ちてきて潰されるかのどちらかだろう。

とりあえず、立ち上がって脱出できそうな場所を探そうかと思いあぐねていると、天井から

パチパチと物のはねる音がした。

(……………)

まもなく、今度はそこから、焦げた臭いが漂いだしている。

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