役小角


■この話の、一応、主人公。しかし、優柔不断で、真剣かと思うと案外テキトーなところが、どうもいまいちヒーローっぽくない(苦笑)

■しかし、役行者(えんのぎょうじゃ)といえば、世間では実在の人物、修験道(しゅげんどう)を開いたおエライお方で、彼が呪力で建てたとかゆー怪しいお寺がNHKのゆく年くる年で紹介されちゃったりする有名人。

そのわりに彼の生没については、謎が多すぎて、正確には不詳。ただ、正史『続日本紀』によれば、699年に人々を呪術で惑わした罪で、伊豆大島くんだりまで流罪にされている。(でも伊豆って…牢獄ってよりリゾートなんだよな〜。この時代だと、人も通わぬ蝦夷の奥地って感じで怖いのかもしれないけども……流され先で小角がかえって熱心に修行しちゃって時々、富士山まで遊び歩いてた…てのもあながちわからなくもない。苦笑)

これが唯一信用できる記録で、あとの逸話は後世の人々の創作であるとみるのが、一般的かもしれない。生まれはいろいろ説があるが、634年説を唱えるものが多い。この年に彗星が現れて人々を驚かせたので、後に、そう結び付けたのかもしれない…が……実は彗星は凶兆(笑)もっとも、ここでの小角は中大兄と同い年で、625年生まれということになっている(後のストーリー伏線になっていた…が今となっては使う気あんのかソレ?みたくなってる現況。汗)

伝説では、たいそうな法力の持ち主で、空を飛び、鬼神を召し使いにしていたという。性格は、鬼神や天神を集めて、『私が通行するのに便利なよう、山と山の間に橋をかけなさい』などと強制労働させるあたり、ワンマンで横暴だった可能性がある。死んで後、神変大菩薩と呼ばれた。今も各地に祭られている蔵王権現は、小角が修行中に祈り出した神である。

さて、得意技は孔雀王咒だが、これは密教の孔雀明王の力を借りていることになる。説話中の彼は(中国道教の)仙人志望のくせに、インド仏教を使うあたり、日本人らしいというか、当時の雑然とした宗教感覚を反映しているというか……。それはともかく。

孔雀はインドの守護神のような鳥で、人に危険なヘビを食べてくれる。だから主に病気を治したり悪霊祓いをするのが役目。つまり、小角の本業は当時でいう咒禁師(じゅごんし)、呪文で治療してくれる医者である。実家に広大な薬草園を持っており、中大兄の弟、大海人皇子にプレゼントしたとかいう美談もある。小角が作って民間に広めた薬も、いまだ実在するらしい。(てか陀羅尼という商品名で紀伊半島あたりに行くとやたら売ってる。汗)

■彼が結婚していた、なんて話はどこにも載ってないが、彼の直系子孫を名乗る高賀茂朝臣という人物がいることから、親族または兄弟が、なにかしら宮仕えを続けていたのだろう(多分な。汗)実は、大角という兄がいたという説もあるが、あまりにもベタなため、ここでは却下された。

■ついでに時代背景。

ゲーテの作品に『流刑の神々』というのがある。古代には実際崇拝されていたはずのギリシャ神話の神々が、キリスト教が広まるにつれて、その権威を失い、徐々にデーモンやダイモーンと呼ばれる、悪魔や精霊の類いに堕とされてゆくという話だ。

インドでは、仏教が興るにつれて、インド本来の神々は、仏教を守護してその配下につく諸天という天神に降格されている。日本では、かつての日本の神々は、物怪や鬼神の類いに堕とされるか、または仏教神の変身像ということで吸収されていく。

役小角の時代は、ちょうどそういった時期のはしりだった。彼は当時としては最新の仏教・密教的な呪法を使って、日本の神々を服従させている。

また、この時代、外政は、唐(中国)と国交を開く一方で朝鮮半島との戦争でゴタつき、内政は皇族同士が覇権を争って暗殺騒ぎが相次ぐ。その一方で朝廷は蝦夷を傘下に入れようと東日本に軍隊を繰り出しまくるという、大忙しな時期でもあった。

■ついでに今後の展開

こういった政治混乱に、結局、小角や前鬼も巻き込まれてゆくことになるのだろうが、とりあえず、中大兄皇子と中臣鎌足が没するまでを第一部、壬申の乱を経て大海人皇子が天皇に即位するまでを第二部、その後の女帝時代までを第三部に予定している。

っていう予定を、実は199X年頃、同人誌に書いたんですけどっ(苦笑)いまだ一部も終わってないYO!