翌日、


帰りはさすがに二人とも疲れちまって。
しばらく海岸で遊んだりしてたけど、

そのうち切符取れたから、
竹芝まで直行便の高速船にした。

バスみてえな客席で、殉はずっと眠ってた。
オレの肩に頭乗せて。
寝顔見ながら、また、行けたらいいなって。
東京湾から見える都内の夜景も綺麗だけど…
お前はもっと綺麗だぜ?
って言ったら。

そこだけは起きててナゼかしっかり聞いてた。

「にいさんは、恥ずかしいことを平気で言う。歯の浮くようなセリフばっかり。だから男も女も引き寄せる、カッコつけのたらしなんだな」
「そうか?」
「そうだ。昔から」

昔も…そうだったかなァ?、オレ…?
よく…憶えてねえけど、そこらへん。

ずっと…繰り返してんのかな…オレたち…

こういう世界を…

ふと、そう思った。
いつまで続くんだろう…って。

「にいさん、似合ってる」
「エ?」

殉が、オレに寄りかかったまま、ちょっと満足そうに笑った。

ああ、ベルトか。
お前が誕生日にくれたやつな。
それに合わせて、このシャツ買ったから。

「ちゃんと持ってきてたのか」
「まァな。準備いいだろ、オレは」

それ、7月4日の朝に、玄関のたたきに置いてあって。
出かける前に気付いて…
なんだコレ?
と思ったら、
バースデーカード付いた青いリボンのギフトボックスだった。

オレが中開けたら、
そんときも、殉は、黙って満足そうに笑ってて。
「オレにか?ありがとよ」
って言ったら。
うん、って頷いた。

ベルトの帯の部分が、
紺のステッチ刺繍で。そこに白い三角帆と
赤の船倉、茶色のマストに
青と黄の大きな帆をはらませたヨットのステッチが並んでる。
留めるところはアンティークな真鍮色の金属と革で。
夏っぽい。
オレは…何にしようかって…悩んだまま…まだ何も渡してねえんだけど…

「エ?…ハットクリップとストールが、そうじゃないのか?服も」
「…あ、そうだな…そうか」

初めて一緒に誕生祝やって。
いつもより豪華なごちそうとケーキ食べて。
ろうそく、最初、何本立てるかでモメたけど。
一人分にした。
それのほうが二人で分けてる感じでいいって、殉が言うから。

七夕もやったし、
夏ってイベント盛りだくさんでいいよな、
大好きな月だ。

「オレ、お前と一緒に生まれた7月が、一年の中で、一番好きな季節だぜ?」
「わたしもだ」

殉が、優しい顔で笑った。
今年の7月4日も雨だったけど。いつか、晴れる日くるかな…?
そのとき、なんだか…とっても驚くことが起こりそうな気がすんだけど…
気のせいだろうか。


もうすぐ、都内に着く。

って…そっか…大島も都内だった…。
コレ都内巡りだよな一応…
今度もっと遠くに行ってみてえけど。いつか…。
でも今回だって、

「楽しかったぜ?」
「わたしも」

殉が、また笑った。
やっぱり、綺麗な笑顔。
いくら傷だらけでも、身体欠陥品て言われても、
オレは大好きだ。
大事に大事にするからな。ずっと笑顔でいて欲しい。

ちょっとあっちのほぅだけは…未だに…自信ねえけど…

「今度、お前に似合う帽子買ってやるよ」
「ほんとか」

なんだか、嬉しそう…。

じゃあそれも、
そのときがきたら自分の棺に一緒に入れてくれ。
って…。
殉が言うから。

「バカなこと言ってんじゃねえよ」

言い返しながら…また、オレは…
「泣いて、いいぞ?」
そう、殉が先に、からかうみてえに微笑んだから。
オレは我慢した。
代わりに、薄い背をぎゅっと抱きしめた。
苦しいって、文句言うと思ったら。
殉も同じくらい、ぎゅうっと抱き返してきた。

ほんとは、
わたしも別れたくない…
って。

ずっとずっと一緒にいたい…。
昔からそう想い続けてきたのに、
叶ってない。

そう、殉が言って。
殉が、泣いた。
今度は…ほんとうに…。

そっか…おめえも…不安で辛えよな…本当は…

だから、わざと明るく言った。
互いの背、抱いたまま…

「ばか。来月から夏休みだろオレは。お前も来月の試験終わったら、時間浮くし。いつもより、ずっと長く一緒にいられるじゃねえか。とりあえず途中色々あるけど冬学期までだいぶ時間あるし…また時間できたら、どっか出かけようぜ?一緒に」

「うん…兄さんとなら、どこへでも行く」

あ…
変わった…発言が。
なんでだろ。今回で自信ついたとか?
…旅の認識、変わった…?
また昔の夢でもまとめて見た…とか?

…でも良かった。
これでまたどっか一緒に行けるな、オレたち。
陽のあたる明るい観光地でも、
フツーの温泉でも、
行けるかも…?
どうだろう?

けど、なんだか嬉しいぜ、オレ…

そう思って、
ふと振り向いたら…

周りの乗客たちが、座席から首伸ばして、みんなでオレたちを覗き見てて…
一瞬後に、さっと視線逸らした。

表情も変えずに黙ったまま。



…うわァ……







◇to be continued◇