そんなんで
事務的なことだけが、

ようやく強引に片付いた後、

やっと久しぶりに研究室出てったら…


夕立ちきそうな異様な空に染まった、
奇妙に薄暗い午後、
とんでもねえもんに出くわした。

ちょうど瞬の兄貴が瞬とこ戻ってきて、
大学の赤いほうの門の前で口論になってて。

ビックリした。

天パは、
まったくあの頃のまま成長したツラとガタイになってたけど。
なんだか
酷くすさんだ感じになっていて。

何言ってんのかわかんねえが、
とにかく激昂して怒鳴ってて、

また出て行こうとする兄貴を
瞬が
必死に止めようとして。

それ振り払おうと
突き飛ばした兄の手が、

車道のほうへ

弟を


飛ばした。



そこ、すっげえ交通量多いとこなんだよ…
犬だって轢かれるくらい。

知り合いの犬も、
そこで死んだし。

しかも死体ぺったんこになるくらい
何度も何度も轢かれて。

その間中、放っとかれるくらい。


だから…


弟のほうが

轢かれそうになったとき。

兄貴が、

真っ青んなって飛び出してきて、
ちゃんと必死に弟助けようとして、

でも間に合わなくて、


だから

二人を、

もっと速く飛び出してたオレが

踏み込んで、

めいっぱい車道側へまわって、


キャンパスのある歩道のほうへ、


二人まとめて


押し戻した。





あァ…

救急車うるせえ…。

いやパトカーか?

何だコレ、
どっちでもいいけど。

ああ、でもこれで、やっと…

殉んとこ行けるかも?って。

かなり、ほっとした。

ホントに逢えなかったらどうしようって
ふっと不安におもったけど
でも…とりあえずオレだけ遺される苦痛は終わりそうだし。

また逢えるとして、
あんまり待たずに、
待たせずに、
済みそうだし。

助かった…

むしろオレが。

あんまり長ぇこと疑いながら待つのは、
オレが辛すぎだったから。
いや、疑わなかったとしても…

オレ、お前みたいに根性ねえんだよ、
殉…。
お前みてえに我慢強くもねえし。
だから…
あんまり長えことは
悲しすぎて生きられねえ…

お前のいない世界なんて…。

ごめん、
ってホントに言いてえの、
やっぱりオレのほうだった…。

お前には生きろと言ったくせに。
根性ナシの兄貴で悪い、

…ほんと…ごめん…


兄弟が、
一緒に、
オレを覗きこんでる。

二人とも叫んで、
泣いている。

なんだよ…
仲直りしたのか?お前ら。
良かったじゃねえか。
オレのこと、わかったかな、
天パの奴。

でも、
オレはもう何だか
意識がはっきりしなくなってきちまって…

「弟、大事に…してやれよ。来世も一緒に…って…約束…してんだろ?」

それだけ言うのが
精いっぱいだった…

もしかして…
こいつらも、
オレたちみてえに…
ずっと一緒に転生してんのかもなァ…長ぇこと…

ってチラっと
頭の隅で感じたり…

そういやオレ…
必ず独りで死ぬもんだと思ってたのに…
意外にコイツらに看取ってもらえるとか…
ちっとラッキーだったかも?

…なんて…
ふらりと掠めたりもしたけど…

すぐにもう…
何もかもが
血の色みてえに
いっしょくたに混じってきて…

真っ暗に覆われちまって…

「バカな兄弟ゲンカ…もう…すんなよ…?……弟、泣かすんじゃ…ねえぞ…ちゃんと…幸せに…してやれよ…」


最期に言えたの…


それだけだった。






◇to be continued◇