「総帥…!!順様がおみえです…!!」

午後遅く、

陽が暗く傾く時刻になってから、
雑兵が慌てた伝令みたいに、駆け上がってきた。

「………」

十数名の腹心に囲まれて、本館正門から、石段を下りていた。

段の途中で、
兄が、やっぱり学生服のスラックスのサイドポケットに両手を突っこんで、
胸をそらし、片足の踵を上の段にかけたまま、突っ立っている。

今度はまぎれもなく、本物だ。
仏頂面で立っているが、
こっちを見た瞳が、強引な色艶を含んでる。

ちょっとめまいがした。

「総帥…本日は…」
「わかっている。後で行く。…おまえたちは一度、館に戻っていろ」
「しかし…」
「いいから、下がれ、全員だ」
「はっ」

殉の、3倍や5倍はある男どもが、そろって同じ角度で同時に拝礼して、館のほうへ整然と帰る。

へェ。やっぱりあいつ偉いんだなァ。

剣崎は妙に感心した気分で眺めている。

まぁオレの弟なんだから当然だけど?
華奢で可憐な弟が、屈強な大男どもを従えて、護られて、こう…なんだろう?
アレだな、紅一点の姫みてえだな。
一応、先代総帥の娘がいるが、パンチパーマのハスッパな娘で、殉以外は、お嬢様とか呼んでるが…
全然そういう感じじゃねえし。

と、自分もかなりなくせに、剣崎は思っている。
もっとも彼女は自分のことも順様と呼んで平伏するし、
弟のことは現総帥として崇め奉ってる。

ま、当然だけど。

二人になると、
殉が、ちょっと冷たい顔をした。

「何のご用ですか?」
「用があるから来たに決まっている」
「…今朝、別れたばかりだったと思いますが…」
「下に車を待たせてある。来い」

黙っている。
それから、
はぁ、とため息をついた。

どうせついてくるくせに。
もっとも、おめえに拒否権なんてねえけどな。
そう思いながら剣崎は、
石段の一番下に止めてある、黒いリムジンまで連れて行った。

「乗れよ」
「…なんだか…拉致されるのと状況が変わらないんだが…」
「まァ拉致だろうな」

車に押し込んで、
押し倒した。

「ちょっ…にいさん…!?…ンンッ」

うるさい口をふさいでやった。
舌を突っ込んで嬲ったら、
しばらく抵抗していたが。

息が上がる頃には、少しおとなしくなっている。
こいつにしては、だいぶ頑張った。

おかげで吐息やら
喘ぎ声、
服と服の擦れ合う音、
床やシートに擦れる音、
ギシギシ鳴る音、
そんなもんが、狭い室内中に充満し、
重なりあって響いてる。

「…聞こえるッ…外にッ…それにっ…ドライバーが…そこにいるの…に」
「なんだよ、運転手とか気にしてんのか?」
「あ、…当たり前だろう…だってここは…」

上気した頬が、赤い。
瞳も、
唇も、
今にも潤んで溶けそうで、
とっくに熱くなってんのに。

だから珍しく…こんなに抵抗してたのか。
面倒な奴。

「つまんねえこと気にすんじゃねえよ。間にガラスあんだろ。アレ見えねえし聞こえねえんだよ、向うからこっちは」
それでもガラスを見上げ、怖々、訊いてきた。
「…ほんとに、大丈夫なのか?…これ…」
「ああ。防弾で防音で特殊遮光だ」
コンツェルンの極秘会議用の特注車だ、信用しろ。

「おめえが本陣の館じゃ嫌だって言うから、こうなったんだろうが」
「わたしのせいじゃなくて……あなたのせいだろう?!」

ミニバーもついてる狭い空間で縺れあってたら、
もうすっかり熱が上がってる。
服、邪魔だな、
と言ったら、
「じゃあ脱げばいいんですか?脱がせればいいんですか?」
なんて、可愛い抵抗みたいな口ぶりで抗議しやがった。



「……ぁッ…」
何…?
何なんだ…もう…
殉は混乱する間もなく、
強引に行為を始められて、
もう為す術がない。

昨日の今日で、カーセックスだなんて。
…ほんと、呆れる。…このひとは…
何考えてるんだろう…
たった一日も待てないなんて…
わたしだってもっとずっと我慢してるのに…

「服が…汚れたら…この後、どうすれば…」
「替え、あるぜ?」
「立場上、困るんだが…わたしには今日の予定が…」
「それは知らねえな。何とかしろ、おめえが」

やっぱり酷い…
こっちの事情はお構いなしだ…

でも自分も、
したいんだから、仕方ない。
と思った。
結局のところ。

やっぱり影道の総帥なんて、あっさり辞めてしまって…
剣崎邸に居残っていれば…良かったろうか…?

半ば本気で、
でも冗談みたいに考えたまま、
抱き合って絡まったようにもつれ込んだら、
窓から
木々の梢と
夕焼け空と
石段と

…野火と、黒夜叉が見えた。

心臓が、
止まりそうになった。

「ちょっ!?…やめっ…」
「だから見えねえって。鍵かかってるから入れねえし。まァべつに見せてやってもいいけどな。ちっとくらいなら。ただし邪魔したらぶっ倒す」

石段を下りてくる。
こっちに向かって。
自分を探しに来たに違いない。
それとも兄に何か用事でも…

…どうしよう…。

やっぱりバレるのは時間の問題だろう…
だって黒夜叉は見えないが…
聞こえる…
この音が…。

もう下半身だけ脱がされて
しっかり兄のモノをハメられたまま、
なんだか殉は泣きそうになってる。
それでも気持ちよくって
喘いでしまって、
本気で泣きたくなった。

「おめえ…あいつらとは、してねえんだろうな?」

ジョークじみた口調だったが、
本音は嫉妬を絡めた声が、
背後から耳に囁いてくる。

「して、ませんっ…本当です…っ…」

お願いだから…兄が信じてくれればいいと思う。
こんなところでキレられたら…修羅場だ…
間違いなく…

「まァ不問にしてやる。とりあえずは」
下から手を突っ込んできて、
乳首を弄りながら、
ニヤついた声で笑ってる。

なんか…楽しんでるみたいだ…このひと…

そう思ったら、小憎らしくなった。

やっぱり意地が悪すぎる…わたしにだけ…
たぶん…こうなることを予想して…
わざと仕掛けてるに決まってる。
わたしを試そうとか…
このさい彼らに見せつけて、所有権をはっきりさせておきたいとか…
何かそういう幼稚な発想に決まってる…

「に、にいさんッ…ちょ…前はだけるのっ…や、…やめて……ひッ…あッ」

背後から
幼児に排泄させる格好で、両足を開かされ…
途中まで下着を下げられて
下着は片方の足首に引っかかったまま…

いくら向うから見えないと言われても…
ヒザに乗せられ
窓に向かって思いっきり開脚させられて…
目の前で勃ち上がってる
自分のモノから体液が流れているのを…

まっすぐ覗かれてるみたいで…
心臓が壊れそうだ…

それにもう…とっくに黒夜叉は気付いているだろう…
いくら最新の防音設備でも
彼の勘と耳は特殊だから……

驚いて、でも黙っててくれると思うが…
いやそうして欲しい…頼むから…

「あッあッあ、…」
小刻みに突き上げられて。
動きに合わせて喘いで、
のけぞった。

どうしよう…こんな痴態を側近の野火にまで見られたら…
もう彼の前で指揮取れない…

…もう…どうすれば…

「じゃあ…いい…見られても…。でも…わたしには…」

…あなたの顔を見せて欲しい…

言ったら、
兄が、一瞬、たじろいだ。

エ?
これが、やっぱりヒットだった?、
もしかして…わたしがポイント取れるかも…
あなたのブローは、いつも一直線に華麗だけど…
わたしだって…打てないこともない…
…たとえあなたが相手でも…カウンター取りにだって、いけないことも…

「対面がいい…バックより…あなたの顔が見える」

膝の上で喘ぎながらそう言ったら、
兄の熱が、一気に上がったのが、わかる。

もしかして今日は、勝てるかも…

ちょっと思った。

でも…
背後の座位より
好きだし、安心する。
顔が見えるし…
思い切って、抱きつける…
椅子やドアにしがみつくより、
あなたがいい…
キスだってできる…

そうしたら、

「そうかよ」

ぶっきらぼうに言い返してきて。

でももう意地の悪いことはしなかった。
互いに首にかじりつくみたいに、
しっかり抱き合ったまま。

彼らが長い石段を降り切って
ここへ到着する前に、
ちゃんと達かせてくれた。

何度もキスされながら呆然としてたら、
インターホンのスイッチを入れて、ドライバーに、
「おい、ちょっとこのへん一周してこい。30分くらい」
指示を出した。

30分あったら…
この熱…静まるだろうか?

「ばか。もう一回やるためだ。こんなんじゃ全然足りねえ」

やっぱりただの寂しがりやのわがままだ。
わたしの双子の兄は。

でも…愛してる…
誰よりも…あなたを…

愛しています…いつまでも…
来世までも…永遠に…

エターナルエンゲージ。

魂の契約。

わたしは…未来永劫…あなたのものだ…

囚われて…
愛し、愛されて…
いつまでも…

来世までも永遠に…






◇Fin.◇