「にいさん、なに着て行こう…」

造り付けのクローゼット覗き込んで、
また難しい顔で、殉が言い始めた。

…そろそろくると思ったぜ。


「なんでもいいだろ。べつにキャペリンとワンピースでもいいぜ?」

今度は登山も絶壁渡りもしねえだろうから。
いいんじゃねえか?
ホントにシフォンのスカートに白いハイヒールでも?

なんかもうオレも、色んなもん一緒に捨てた。覚悟決めたぜ。
いまさらこだわる意味ねえな。
お前がいいなら何でもいいぜ?

ぜんぶ、付き合う。

「顔のキズ…にいさん、メイクで隠せるって言わなかったか?」
「言った。やるか?今」
「…道具、持ってるのか」
「ああ」
「…なんで?!」
「こんなこともあろうかと、ってやつだろ」

高校の学祭で使ったやつ、棄てるの忘れてて、ずっと持ってただけなんだが。
なんかもったいなかったし…
かなり高ぇ買物だったからな…当時のオレとしては…

「顔、洗ってこい」

って言ったら。
ちゃんとカチューシャで額まで前髪上げて戻ってきた。

オレの前に緊張ぎみな表情で正座したこいつの顔、
やっぱ…額から全部、丸見えだと…すっげえなァ…傷、でっかくて。
何で…やられたんだろうな…って
…思うと辛くなるから、考えねえようにしてるけど…

ベースの上から重ねて、
コンシーラー、筆で厚めに塗ったら、
わりと…見えにくくなった…

いいんじゃねえか…?…こんなんで。
てか受験の時も、学生証の写真も、コレで撮れば良かったじゃねえかよ散々悩んで騒ぎやがって。
まァ顔面に、でかい傷あっても皆、見なかった感じにしてくれてるみてえだが学内じゃ…。たまに、どうしたの?とか聞く奴いてもカッコイイですねソレみてぇなリアクションだったり?
…前髪長くて半分は隠れてるから…本人気にするほどは目立たねえと思うけど…
いつも可愛いカッコしてるから強面でもねえだろ?気持ち悪いとか怖いもねえだろ…クラスの皆さまのお役に立ってるし?愛されてるし?…とは思うが…つーか、すでに妙な男ばっか大勢従えてる有様じゃねえかよ…おめえは。

もっとも全身の傷は今も服で隠して…スポ身は座学中心の取ったみてえだったが。体育、フツーのやつ取れば、こいつ元々はオレと同じで能力値高ぇハズだから…たぶん面白いのに…ちょっともったいねえ気はするけどなァ?

…と?……ナチュラル感、失われないようにファンデーションとパウダーは薄めに重ねといて…

ん〜ちっと難しいかなムラが…

…お?まじでいけてる…?…

案外、ぜんっぜんわかんなくなったかも…??

しかしここまでくると…眉も剃ったほうが…
…睫毛はそのまんまでいいか…長えし綺麗だから。
アイラインやアイシャドウまでやるとアレすぎだし。
オレの学祭んときのメイドコスまんまでいいだろ多分?…チークもやめといたほうがいいよな、リップは透明感だして薄く、と…

…うわァ?!

…まじ普通に美女みてえ…。

天才じゃねオレ?いや天才だろオレはまぎれもなく…
…ん?

客観的に考えるとヤバいよなこの状況…
弟、可愛い女の子にして燃えてるとか…
普通に変態じゃねえか…


「ほんとだ…綺麗になった…すごいな、にいさんは」

殉が、ユニットバスの鏡見て感動してる。

「にいさんもやってみればいいのに」
「オレもかよ…?!」

…いや、やめとく。
どうせ双子の姉妹みたいになる。
メイド姿、河井に似合ってるって言われただけのことあるよな…
と自分でも思ってる。
まじ黒歴史だが…自覚はある。


「これなら何着ても大丈夫だな」

ってココでオレの服チョイスかよ。
サイズ合わねえし。
逆に、変にダブついた男装みてえになるぞ、つったら、

じゃあ今持ってるマキシ丈ワンピースにする、

って…なんかもう定番になりそう…お出かけはスカートで的なことが…。

結局、どっちにも見えるユニセックスな恰好と両方準備して、
「完璧だな!」とか言ったあげく、やっと落ち着いた。


「じゃ、行くか」

ネットでチケットも予約したし。空港へ?

「…そういえば…飛行機……乗ったことなかった…」

って何、いきなり緊張してんだよ…。

「大丈夫だ、墜ちねえから。石だって投げりゃ飛ぶだろ、弾道ミサイルも一緒だ」

ちょっと違うけど。……。
つか航空系の流体力学つかっててめえで計算しろ。
そして納得しろ。

「いや、にいさんと一緒だから…墜落は怖くない…。どうせ墜ちたら一緒に死ねるから」
「何気に怖えこと言ってんじゃねえよ」

じゃなんだよ、って思ったけど。
要するに、未知との遭遇っつかアナザーワールド的な異次元領域どうしよう、みたいな?
…も、ホント、お前、面倒くせえ。
よくわかんねえし。

「ほらよ」

オレの腕、目で指した。
なんかもう…普通のカップルでいいぜオレ…
どうせそう見えるし多分…

殉がオレの腕、両手で抱くみてえに握って、
ついてくる。
殉くっつけて歩いてる感じ。磁石みてえ。

ま、オレたちには元々…他人にゃ見えねえ超強力な磁石ついてるけど?

この磁石…色んな奴も、実は持ってんじゃねえのか…オレたちの周り…。

なぜか、そんな気がした。

「傷、見えないなら、石松くんの会に出てもよかったな」

って殉が言うから。

オレが嫌だと言った。

どうして?って怪訝な顔したけど、
なんとなく理由もねえのに納得したみてえだった。
お互い、なんでか知らねえけど…。



後日、その写真が送られてきたんだが…

フツーに挙式して、ごくフツーに披露宴やってんじゃねえか!
結局、何だったんだよアレ…
やっぱ嫌がらせかよ?オレへの?!…ただの婚約パーティごっこ気分、やりたかっただけかよ?!
いやでも何で?!

……ま、どっちでもいいぜ…好きにしてくれ…どうせオマエらのシアワセだし…

引き出物のギフトカタログと一緒にわざわざ送られてきた封筒を、殉が先に開け、なかの写真を取り出して、にこやかに…

「綺麗だ…石松くん」
「いやそこは花嫁さんだろ」
「でもいつもと全然、姿が違う」
「白足袋、白草履に、黒の五つ紋付羽織袴なんか着てるからだろ?…馬子にも衣装っていうんだよ、こういうの」

でも男女とも、確かに綺麗だった。
石、和服の正装、ビシっと決まってカッコイイじゃねえか。似合ってるぜ?
寄り添った、白無垢に文金高島田結い上げた竜の姉もとても美人で幸せそうだ。

……なんだろう…

今、すごく、ほっとした。
延々続く長え罪悪感みてえのから…やっと解放されたような…

罪悪…?

…気のせいか
オレにとっちゃ友人のめでたい結婚式で…それ以上でも以下でもねえハズ…なのに…ほっとしてた…なんでか、わかんねえけど。

おめでとう、石松。
幸せになれよ、今度こそ。

竜の姉貴も、
…二人とも。

アレ…何でだろ…オレ…涙、出そう…




さらに後日、
スコルピオンとヘルガの結婚式と披露宴の写真も見せてもらった。
見せられたんだが。

二人とも軍装だった…

…昔の第一礼服らしいが…旧陸軍の将校服…?!

ソレ…同性愛者は問答無用で収容所送り、虐殺だった時代じゃねえのかドイツ法的にってか濫用で。
一体どういう趣向なんだ。お前らソレ、役所で着たのか立会人や市役所職員の前で大丈夫だったのか?!
いちおパーティはフツー姿で、こっちはどこの芸能人披露宴だよって感じの華やかさだったけど…。
いや普通じゃねえよな、古城借り切ってゲストも大勢呼んでとか…向う的にカナリ金かけてる…
しかししょせんロングタキシードやテールコートなんてのァ…ゲルマン系のブルーの瞳にプラチナブロンド、ルックス良くて背高くて足長え奴のが似合うよなァ?…やっぱ石にゃ悪ィけど。

「ものすごい綺麗だな…」

殉なんて、頬染めて、ぼうっと見とれてたし。
つかコイツ…自覚ねえだけで、
…まじ男好きなんじゃねえ?…

だって女のグラビアとか全然反応しねえし。
テレビの美人女優やアナウンサーや歌手にも無反応。
美魔女もロリも巨乳も見事にスルー。

見てるドラマは男ばっかの任侠モノか時代劇、男ばっかの戦争モノとか。
大学でも女と話してんの見たことねえ。つか元々1000人以上の男子校みてえな世界だけど女子少なくて。
そこで男ばっかの大軍はべらせて、すっげえ居心地良さそう…

合コン行きたいとかサークルで女とつきあいてえとか全然ねえし…
ってか何かそういうの、不埒者!みてえな?…

女とつきあってる奴のこと、ホント、バカにするよなァコイツ…
冷たい目で見るっつか?!…
いやオレ限定か…その反応。この裏切者!みてえな…

でも元々そっち系じゃねえのかコイツ実は…
自分で気付いてねえだけで…って気がとってもすンだけど…

つーか…いつまで見てやがんだコイツ…
まじオレ、妬いてんだけど?!殉、…
信じらんねえ…オレの目の前で堂々と…まじ浮気か?!
オレもさすがに負けるぜコレは…って深刻に自信失くすほどは…やっぱ、すっげぇカッコよくて…ってな奴らにクギづけとか…お前…

スコルピオンとヘルガの写真に、あんまり見とれてやがるから、

「おい、惚れんなよ、他人様のだからな」

一応、肘でどついといた。かなり強めに。

「痛っ…ちょっ兄さん…すごく痛い……大丈夫だ、わたしは兄さんひとすじだから」

アルバム見つめたまま、かえって不安になるほど真剣な声が、返ってきた…

「ホントか?」
「ただ…」
「ただ?」
「……いいな〜と」
「なにが?神前や人前でリング交換してキスしたり。ヤーとかナインとか言いながら誓約立てンのが?市役所で契約書にサインしてフラワーシャワーとか?……日本みてえにお飾りじゃなく式で本物の結婚証明書出してもらえるとこか?…それともオリジナリティ溢れる楽しいお披露目パーティか?」
「…全部」

「……」

そういや…

今って、兄弟じゃなけりゃあ…結婚も出来るんだもんな、わりと普通に…。カミングアウトして皆に祝ってもらえるとかいいよなァ…ってオレもちょっと思ったけど、どうなんだろうな。羨ましいような…でも、どの宗教の神も民族も絶対に許さねえだろうこのトクベツ感にこだわってるような。そんな気もした。

オレたちには一生、縁のねえもんだけど…

「結婚式、してえか?」

あんまりいつまでも羨ましそうに見てるから。
一応、訊いたら、

「したい」
「エ…」
「って言ったら、どうする?」

うーん…どうしよう…。

「戸籍上は姓が違うんだから、できないのかな」
「……どうだろうな…。海外でバレなきゃアリかもしれねえ…。…けどイスラム問題外として。キリスト教でも殺されんじゃねえのかカトリックにしろプロテスタントにしろ正教会にしろ…つかカトリックと正教怖え…いやプロテスタントもダメだろ、いくらコミュニティによっては同性婚OKでも…オレら双子の兄弟だぜ?正真正銘の…」

「磔にはならないと思う、現代だから。…でも…偽証罪とか?…もっと重いかな…懲役何年くらい?…禁固刑?あなたとなら塀の中に閉じ込められてもいいけど…たぶん別々にされるだろうし…その方が嫌だ。保釈金払うお金もないし…」
「…リアルすぎる微妙なコメントありがとよ。…てかお前…マジか、悲しげな顔すんじゃねえよ、オレも暗くなんだろうが!」

殉が、ちょっと笑った。
いつも結婚式やってるから、いいって。
毎朝、早起きして、オレが教室まで送ってくのが、バージンロードなんだって。

教会じゃなくて教室かよ。
つかバージンロード、帰りじゃなく往きで歩くの、新郎じゃねえしお父さんだし。

「いいんだ、家族も…この世で、あなたしかいないんだから」
「………」
「一生に一度より、毎日できるし。…いつもにいさん、玄関で手、握ってくれるしキスもしてくれる。教室に着いたら、今日も一日元気でいろよ?、って…手ぎゅってしてくれる」

…なんか…超安上がりで日常的な挙式だなァオイ…
てか周囲にさりげなく見えるよう別れ際にコイツぎゅってするの、わりと苦労してる、毎日…
ま、早いからほとんど人いねえけど。誰もいなけりゃキスもできるし…




さらにその後日。
せっかくプロ入りして順調だった高校の後輩の竜児が、
1年足らずであっさり辞めて。
試合中に竜のファンになったっていう、ものすげえ可愛いコと一緒になった。

そして、姉のほうも先に家出ちまって独りになってた竜の母親よんで、一緒に暮らして生活の面倒見ながら、三人で花屋と手芸教室開きました。

…って?!…どんな…??!

まァ…花屋って結構大変だけど。
早起きしてバトルみてえな競り市に出て、目当てのモン妥当な価格でゲットして他の競り屋に勝たなきゃなんねえし。
見た目ほど可愛くねえよな…殴り合いはしねえけど。早朝から殴り合いみてえな掛け合い競り合いってうか…
でも、そっちのが、良かったんだとよ…。

わっかんねえよなァ…?
あいつ、ものすげえ才能あったのに…プロボクサーの。世界チャンプになれるくらい。
ファイトマネーだって桁違いだろ、零細花屋の収入なんかに比べたら…

「でも高嶺くんも、幸せそうだ」

今度、新しく開店しました、応援よろしく、

のお知らせハガキ受け取って、
殉はなんだか微笑んでる。

そうだな。

オレも…なんとくそれで良かったんだって、
ほっとしてる。

なんでだろ。
ま、竜ってあんまりバトル系じゃねえもんな性格が。
無理して生活費のためにガンバってたけど
元々は穏やかで。人殴ったりするの大嫌いで…そこはウチの殉もそうだけど…

とりあえず…

「花、買いに行くか…その、…ドラゴンフラワーショップ?とかいうセンス皆無なネーミングの場所へ…。せめてDフラワーとかにしとけよって思うけどな」
「でもインパクトある名前だ。絶対、花屋にない感じだから一度聞いたら忘れない」
「まァ…そうか」

それにしても、
いまどき旦那の母親と進んで暮らしたいっつー奇特な嫁も珍しいぜ。
顔ばかりか性格もとってもいいコなんだよなァ…その…カナちゃんとかいうコ。
しかも親は竜の死んだ父親の同級生か何かで?
一代で大成功した実業家で、超お嬢様らしいし?

でも恋愛にはすげえアクティブで、竜に惚れて以来、
押して押して押しまくって。竜児を、カナちゃんのほうがゲットしたって話だった…。

…つか何でか知らねえが…この女も苦手なんだよなァ…オレ…。

見てるとどういうわけか全力で土下座したくなる。

…ソレ、竜の姉貴もそうだったが…

だァから気まずいってか何てかもう…苦手なうえに苦手で…

…なんでだ??


「なんだ、にいさん、羨ましいのか?…美人で優しいお嫁さんが?」

写真片手に、ハガキのカナちゃんじっと見てたら。
今度は殉が訊いてきた。
ちょっと唇の端、吊り上げて皮肉っぽい顔をして。

…こいつ……もしかして…
こういう意地の悪い顔するときって…たいがい…
っつかコイツものすごい珍しいからな、意地悪な顔するの…
わかりやすい。

「おまえ、嫉妬だろ?」
「ああ。そうだが?それが何か?」

…冗談で言ったのに。
…殉が、真顔で即答してきた。
…やべえ…本気だコイツ…

「まだ、美人のお嫁さんが欲しいのかと思って」
「まだ…って…。いつオレがそう言ったよ」
「なんだか、いつもそんな気がする」
「それはな、おめえの嫉妬が生み出す妄想ってやつだな」


河井は相変わらず、姉と同じマンションでルームシェアみてえなことになってたが。
大学卒業したら、院はオーストリアだかドイツだかに留学するらしい。ピアノで。姉と一緒に。
てかどこまでも姉と一緒かよ。
志那虎は妹と一緒だしな。
シスコン多くね?…まウチ、ブラコンだからちょうどいいけど。高嶺はマザコンとシスコンぽかったから、これでファザコンいりゃあ全種、揃うよな。でもスコルピオンん家がそうなりそうだった…養子の男の子だけど…。これでコンプリ?

けど、河井の話じゃあ、志那虎は本命ファザコンで、しかも、かなり重症でこじらせた…そのせいで敷島の歌なんかに入れ込んでやがって。って?なんだよ、敷島の歌って…本居宣長のファンとか?それとも特攻隊のほうか?…で妹のほうが、やっぱりこじらせた重度のブラコンで。きっと行かず後家になるって河井が言ってた……ややこしいなオイ。

まァ、面倒さじゃあウチも負けてねえけど…




殉があんまり…遠回しに女のことで絡むから。
沖縄行ったとき通りすがりの観光客にシャッター押してもらった画像、
二人で使ってるデスクトップのパソコンと、各自のモバイルの壁紙にしてやった。
オレは9.7インチのタブレットだけど、殉はオレが最初に買ってやった最安値のガラケーに頑なにこだわってて。
つか両方、スマホ持ってねえし。LINEもやってねえ。支障ねえけど。
むしろこの間からスコルピオンたちにLINE一緒にやれってしつこく誘われて参ってる。どっかのSNSの招待状みてえの毎週、英文メールで送りつけてきやがるし…スパムかよ?!

…生協の学生価格で買った画像ソフトでデコレーションして、激ラブな新婚旅行カップルみたいにしてやった。

「どうなんだよ、コレで?」
「………ちょっと…恥ずかしい…かも…」
「じゃあやめるか?」
「……使う」

エ?…まじで?……。
だって…そのケータイ…おまえ…大学、持ってくよな…

…今度はオレが焦ったけど。
まァ…いいかって…いや待て、いいのか?!オレ…
良くねえような気もするが…でもこれで殉の妄想が治まれば…。
でも浮気してんじゃねえかって嫉妬されるのもイイけどなァ?
何かソレ…オレ的にゃちょっと嬉しいかも。

「けど、オレもべつに、美人で気の利く料理も巧い、頭脳も明晰で優秀な、とっても優しい嫁さんいるけど?すでに」
「エ…どこに…」

なにその、超びびってる反応。
おもしれえ。
こいつ、いっつもそうだけど…女ってワードに超反応しすぎだろ。
あんまり不安そうな顔するから。
「おめえにゃ教えねえ」って、からかったら、

…泣きそうな顔しやがった…。

うわ、やっべえ。
ほんとに、泣きそう…。
どうしよう…


もっと引っ張りたかったけど…

「ここだろ」

慌てて、額にキスしてやった。

「酷いな…意地が悪い…」

涙目で…
ったく…しょうがねえな。

唇にもキスした。
ディープな恋人キス。そしたら殉が、
おもいっきり抱きついてきて…
オレの首に両腕回した。

そのままベッドに押し倒したら、
なんか、笑ってる。
なんだよ?今泣いたカラスが…みてえな…?
それとも作戦か?最初から…

「にいさん、沖縄でしてくれたの…すごく、気持ちよかった…」

もっかいして欲しい。

って…

え?今?…今から?!

いや今日、休みだけど…ガッコーもバイトも…。
掃除と洗濯しようと思ってたのに…
…ん?でもやるなら後だよな…洗濯…

殉が、腕と足まで絡めてくる…
うわ、本格的…てかマジでやる気か…

丸い小さなこたつテーブルに載った、パソコンのモニタの画像が視界の端にチラっと見えた。


白い砂浜で、透明な明るいグリーンの海を背景に、
つばの広い純白のキャペリンかぶって
純白のシフォンのロングワンピ着た殉を、
スカイブルー地にオレンジやイエローの花々がグリーンの葉の上で咲き乱れる、
かりゆしウェア着たオレが…

お嫁さん抱っこしてる。

ウィンクしてる笑顔の二人を、でっかいピンクのハートが囲んでて「オレたち結婚しました、剣崎順&殉」って赤い文字で重ねて…

って…こんなもん待ち受けにしたケータイ大学持ってっていいのか?!
…よくねえ!!…完全にアウトだろ…

なんかやべえなァ…色々…
どうやって阻止すっかなァ…
って思いながら、ベッドに、腕の中のもん抱えて、転がりこんだ。


もうすぐ、夏になる…

オレたち、もういっこ歳とって…
今度、21か。

真夏んなったら大学のセミうるせえよなァ…
草木と土の匂いがむっとするほどすごくって…

て…思いながら抱き合った。

「あ、…ぁ、…ん、ぁ…」

殉が、可愛い声で啼いてる。
ちょっと変わった角度から挿入れたら、すげえ悦がって。
すごくキモチイイって…半開きの唇と頬染めてカラダよじった。

やっとオレもコツ掴んだ…気がする…。
なんてな。
こればっかりは全然、慢心したことねえなオレ…
機械工学総合演習より、慎重かつ、予習復習実習とも怠りねえ気がする…

「ぁ、ぁ…ンん…っ…イイ…にいさん…すごく…巧い…」

あ、初めて上手いって褒められた…かも…

………やったぜ、って…カンジ…
なにこの達成感…!…オレ、大学の試験でほぼ満点とってもこんなにテンション上がらねえ…
そっちは当然と思ってるせいか?…むしろ取れなかったらどうしようとか…


暑ィ…。

汗だく…息上がってる…お互い…

梅雨の晴れ間だけど今日。
真夏みてえ…。
蒸し暑い…でも…

ずっと夏ならいいのに、って思うくらい。
オレ、好きなんだけど…

お前と、世界の外で初めて会った瞬間。だからかな?
…中では…10ヶ月だと…前の年の9月か、オレたち、ホントに出逢ったの。
どっちみち夏か…

そこが他の兄弟とも恋人とも全然違うトコだぜ?
なんたって、世界の内側でも、逢ってんだから。
発生した瞬間から出遇ってんだから。
これ以上ねえだろ。

ホントのホントに最初の最初だぜ?

「に、…にいさん…」
「ん?」
「…あいして…る…?」
「ああ。おまえ、は…?」
「うん…あいしてる…とっても…」
「オレもな、…」

愛してる。
世界で一番、あいしてる。
そう、言えて、良かった…
今生は…

今年は、誕生祝い、オレが先に準備しとくから。
お前は試験前だし忙しいし時間あんまりねえだろうけど…
ミニパーティしよう。
誰か呼ぶか?
いや、二人っきりがいいな、オレは…

「わたしも…ふたりが、いい…」
「ん、オレも」

そうしたいから、そうしようぜ?

「うん、二人だけがいい。にいさん……誰よりも…好き…だ…」

オレも…。

皆の前じゃ…さすがにカミングアウト出来ねえけど…この関係。
他の同性カップルと違って、最初から兄弟で、家族だけど…
結局、引き離されて戸籍も違うし…
形式上は他人だし…
一緒にも長えこと暮らせなかったし…
孤独だったし…辛かったし…。
やっとここまでこれた今後も、
オレたち二人以外には、誰にも知らせることはできねえし…

誰も認めちゃくれねえし…
祝っても、もらえねえけど…

「あいしてる、殉…」
「わたしも、」

お前は…
そのせいで、オレより、もっと苦労したもんな…。

「でも、あなたが、いたから…生きて…られた…」
「オレもだぜ?」

お前がいたからココまでこれた…

ぴったりくっついて、深い深いキスして、
身体もつなげて…。
それでも相手と存在、共有できなくて互いが互いのモンじゃなくて寂しいって言う奴いるけど…

オレたちそんなこと、ねえもんなァ…全然…、

今…

すっごい一体感。なんだろ、コレ…

「ぁ…ひぁ…はぁ…ア」

なんか…殉が、腰よじってのけぞって瀕死みてえな声上げて…喘いでるけど…キモチイイんだよな…コレ…ちゃんと何度もイってるし…。

オレも…すごく…気持ちいい…

あァイイな…って…ホント、感じた…
身も心も…
触れるものは…何もかも…





◇to be continued◇