スコルピオンとヘルガん家は、

わりとフツーの小ぢんまりした平均的な戸建、

つっても、
駒場近くの住宅街で…目黒、世田谷、境目の、いちお…渋谷区。端だけど。
アッパーミドルのサラリーマンの典型的な感じ?

いちお建築家にオーダーで造らせたデザイナーズハウスで。
…ドイツじゃ父親が旧西ドイツ圏で同族経営やってる大金持ちらしいが?…スコルピオンのほうは。

30坪くれえの敷地にある、三階建の玄関前には、
アインシュタインの相対性理論を模型化したとかいう
意味不明な門が建っている。

芝生の植えられた小さな庭には、
猛犬注意のシールの下で、
でっけえドーベルマンが2頭つながれてて

オレは最初から最後まで、殺人的な勢いで吠えかかられてえれぇ目に遭ったが。
ムカついて本気で睨んだら、
キュンとなって退いた、
犬どもが。

殉は…
懐かれた。

都心の駅だの通行人だの電車も苦手なくせに、
…遭遇したとたん

「ハイ、おて、おかわり、おすわり、両手挙げてばんざ〜い、そのままくるっと一回転、続けて、くるくるっと三回転、よし上手!」

って…おめえは…初対面の猛犬相手にさっそく何やってんだ?!危ねえから離れろ!!

て…かなり一瞬、焦ったが…。
その時、庭に出てきたスコルピオンも驚いてた。

「わたし以外の命令で芸などするとは…しかも我がゲルマンに無い新しい技……きみの弟御はやはり変わってるな」

…妙に感心してやがった。

猛犬がアリで、
渋谷、銀座、都心の駅構内、デパート、満員電車、地下鉄、賑わうフツーの観光地がダメって…
…謎すぎだろ…いや一貫してんのか?…自然派志向で…?

今も、

獰猛な黒光りする犬どもが
もしシッポ切られてなけりゃあ風車みてえにブン回してるよなって勢いで、殉にまとわりついてやがる…。しかも大喜びで、待てと伏せかよ。ご命令、ぜひともお待ちしてますかよ?何かご用はございませんか?って感じ…
ヘルガの奴、可愛いペットの世話って…殉にだけだろ?可愛いの。
犬の待遇が違いすぎる…オレのときと…
なんだ、この違い…
…双子なのに!

「やあ、いらっしゃい」

インターホン押す前に、犬どもの騒ぎっぷりを、どっかからか見てたのか、
丸いメガネの柔和でおっとりしたヘルガが
ドアを開けてくれた。

電話でさっき連絡しといたんだが…
察し良いぜ、相変わらずこの男。

金曜の午後だが、
今日はどっちも暇だったとみえて、
大学から徒歩15分のココへ戻ってた。
こういうイージーな感じが大学人てイイよなァって思うけど。
アカデミックタイムっつーの?
代わりに元旦の朝でも研究室にいたりするけどな。

玄関上がって、すぐ左手、
吹き抜けの壁に、まるで美術館みてえにライトアップされた大小の絵画や、虹色のガラス器…中東砂漠の発掘品らしい水差しや杯、壺なんかが、モザイクみてえに配置されてるのを横目に眺めつつ、
らせん階段を昇った。

2階のリビングキッチンの、
リビングのほう。

黒い羊革の、背もたれ付の長椅子が、二つ、
分厚い一枚板の低いテーブル挟んだ両側に、置かれてる。

その一つに、
壁の、いちだんと大きなキュービズムっぽい謎の風景画をバックにして、
ゆったりとスコルピオンが座っていた。

こいつ…もう部屋着?!
しかもきらびやかな刺繍付バスローブみてえな、胸はだけた妙な服…


「よく来たな。どうぞ、座りたまえ」

黒長椅子のど真ん中を、偉そうに足組んで占領しながら、
なんだかやたら色気ある綺麗なツラで、オレたちを見て微笑んだ。

ヘルガも可愛い系だけど。
年齢不詳の容姿端麗なお色気カップルで…
なんつーか…。

「最近、調子はどうなのだ」
「調子っていうか…まァ…」

オレたちは
キッチン背にした反対側のソファに…
やっぱりオレも足組んで座った。

ま、日本的にゃ教授の前で無礼だけどオレの性格ってことで。
相手が強ぇ奴ほど絶対ぇ媚びるの嫌っつーガキくせえけど仕方ねえ性分。
おかげで目ぇかけてくれる奴らや崇拝する奴らがいる一方
ずいぶんイジメにも遭った。

もっとも手向かう奴らは上から下まで全員叩きのめして生きてきたわけで?

今も昔もサバイバルな人生だが
後悔なんて微塵もねえ。

どんな悪条件でもオレは最後に頂点に立つ、
そしてやりたいようにやる、
ってコンセプトで生き延びてきた。

最近、二極化のせいで、カネの無え奴はイイ大学に絶対行けねえから
高収入にも永久になれねえってホザく奴いるが。
関係ねえな、オレの場合。

ってか、成功した企業家なんて、学歴ねえ奴も多いし、金儲けはまた別な才能だろ。
やれる奴はやれるし、ダメな奴は出来ねえ。
それだけだ。

オレに言わせりゃあ成功に必要なカードは、3枚。

そいつの持ってる才能、努力、それ以外の運。

親にカネあるってのァ、そのうちのたった一枚、
運の一部にすぎねえ。
それだけじゃ、他の2枚分を何とかカネでカバーして上行けたとして、

上どうしの熾烈バトルじゃ使いものにならねえし。

バケモンみてえにデキる奴なんざ、大勢いるんだし世の中には。
真の実力者どうしが、しのぎ削って生きる世界に、割り込んで競り勝って、生き残れるとしたら、
相応の才も、それを伸ばす確実で正確な努力も、100回敗けても次に勝てる根性も、ラッキーな時流や運まで、すべてそろわねえと到底、無理。

才能は、個々に与えられた初期設定。それも運の一つとして?ソレ伸ばして使いこなせるかも運あるよな。だったら、その点、オレはラッキーだったと思ってる。まァ努力、実力、無関係で、たまたまココまでこれたと言われたらムカつくけどな。今のオレにゃあ、カネだって、親から一円も出てねえし?

……って、以前、高校のときだったか先輩に言ったら、猛然と反論されたうえ嫌味で生意気な奴だと罵倒されたが、

時代や親の財力のせいにして、てめえの無能さ、棚に上げてられりゃあ楽だよなァ?
って返したら、当然あからさまに嫌われて、滅茶苦茶いびられた。

なんかオレ…カネがあるからデキた、無いからダメだった、巧くいった奴はたまたま運が良かっただけ、今は時代が悪いから何やっても無駄って類の思考、ものすごくカチンとくんだよなァ…どういうわけか。

てか…
世界って、シビアだろ、元々。機会の平等はあるべきだが。
結果の平等は、無え。いつだって。
そして現実は、初期設定から途中の障害まで、全員、違ってて、そん中で何とかやってくしかねえわけで。
不平等、上等。
リスクが、来い。
全部、嫌なら、革命でも起こせ。
だってそうじゃねえか、世界なんて…

たとえ時代を変える力が無かったとして。とりあえず何か一個でも力がありゃあ、なんとか生きれる。そのチカラ、何だっていいけど?べつに?天賦の才でも、親の金でも?身の丈に合った自意識とやらでも?ゾンビなみの体力でも?底抜けの楽天さや、毎日つまんねえ同じこと単調に確実に繰り返せる地味な努力でも?
どんな手段使っても何でもやれるって地べた這うような根性でも?

ただ…自己責任全回避、なンでもかンでもうまくいかなきゃァてめえ以外の誰かのせい、って野郎だけは許せねえな。
そんなこと、誰にでも、ずけずけ言っては、よくハデに嫌われて。でも逆に面白がって寄って来る奴らもいるわけで。
問題ねえな、オレ的に。
っつー日常からして喧嘩の絶えねえサバイバル。

殉はオレと違って誰ともモメねえ性格だが、
オレはいつだって、あちこち、ぶつかりまくりで。
ま、でもオレ、オレより実力ねえ奴に頭下げるのだけは、死んでも御免だぜ。
なんてこと、先輩にも教師にもホザきながら、
背後から撃ってくる連中ばかりと争って生き延びてきた。

殉と再会するまでは、ずっと、そうだった。一緒に暮らし始めてから、…今、かなり丸くなったけど、オレ。ギリギリ一杯、強がって。なんかいつも心は…独りきりで孤独で、必死だった。

…そんなんで、
この一癖も二癖もある教授どもとも、
親しくお付き合いできてるわけだが…?

今もオレは分、不相応にふんぞり返って座ってて…
オレの隣では、殉が、
両脚そろえて背筋伸ばして、両手を膝にのせ、かしこまって…

…正座していた。

て…何でソファで正座ァ?!!
いや、いつもそうだが、…家でやれ!
ココでやんじゃねえ!

…ンまァ…学部学生の分際で、教授相手に悠然とタメ口きいてるオレもどうかと思うけど…
もっとも、相手は妙な外国人なので、
そこらは、まったく気にしていなかった。

「殉の体調以外は、そこそこ…体調も…最近は、そう最悪でもねェかなって…。
春に一回、入院して、ヘルガにも診てもらったし…
あれから調子は…良いとはいいがてえが…死ぬほど悪くもねえぜ?どちらかといやあ一時期よりは…だいぶ安定してるっつーか…」
「にいさん、わたしはべつに…今のところ…何の問題も…」

「あァ?!あるだろ、おめえは?!週2ペースで、ぶっ倒れやがって。ドキドキさせてんじゃねえよ周りを。今日だって傍迷惑な…だから来たんだろうが、ココへ。
半分は、おめえの詫びだよ。
つーかオレにも詫びろ。おかげで午後の演習が、欠席になったじゃねえか。
学科長のやる、専門でこれサボるとかありえねえ的なやつだったのに…
しかも誰にも断らずに出てきちまって…単位落としたら、おめえのせいだからな?!」

「だから…たいしたことないと言ってるだろう。にいさんが勝手に騒いでるだけだ」
「おめえ…オレに連絡くれたの、このスコルピオンなんだぞ」
「それは…その…お騒がせして…誠に申し訳ないと…」

膝の上で、帽子両手に握ったまま…薄いストールカーデの両肩縮めて下向いた殉に、
部屋着のラッパみてえな筒袖あげて、
スコルピオンが軽く遮った。

「いや、そのへんはあまり気をまわさんでくれ。わたしもヘルガから連絡をもらってな、一応、ケンザキにと……大事ないなら、それで良かった。
…で、学業のほうは?」

「そりゃァ…問題ねえだろ本来は。今日みてえなことが連発しなけりゃあな、オレも殉も」

ふむ。と、胸はだけてリラックスしすぎだろって姿の奴が、
一転、やけに鋭い顔に変わった。

「だが、我ら二人が支援する以上、成績不振で、留年や降年…希望進学先を落とすなど…万が一にもあってはならんし…
当然のごとく、銀時計組に入ってもらわねば困るのだがな。わたしたちのメンツにも関わることだ」

…あァ?メンツ?…
の銀時計?
って何だソレ?…
いつの話だ?…

銀時計組って…
旧帝大時代だろうがよ?
大日本帝国、いつまで引きずってんだ。

…要は成績、学部内で上位2番くれえまでには入れってか?
まァ…殉の実力的にゃあ、可能だろうし…
オレも今日みてえな騒ぎがなけりゃあ…別に…

つーかオレたち、自宅通学のゆとりあるガキどもと違うから。給付奨学金や授業料免除とか切られると死活問題なんで。成績悪ィなんて許される余裕が、これっぽっちも無…

「はっ、スコルピオンどの。御下命の段は、すでにヘルガどのより承っております」

はい?

「お気持ちのほど、しかと肝に銘じておりますので。このわたしの一命に代えましても、必ずや、お約束申し上げますゆえ、…何卒、ご安心召されますよう…」

…いやいやいや…オレの隣で…殉、おめえは何言ってんだ?ものっすげえ決死のツラで……いや決死はわかるけどオレもだから…

……お前の場合、なんか違ぇわ、ぶっちゃけ、ただの時代劇の、見すぎ。

スコルピオンは外国人で、何かちょっと知識がオカシイ。

おい、コイツら大丈夫か…?

「どうぞ、みなさん」

ヘルガがいいタイミングでお茶を出してくれた。
……って

ビール!?

…昼間っから、ピルスナーにへレス!??
それに白ビール黒ビール赤ビール琥珀色ビール…
揚げたポテトにプレッツェル、各種腸詰、アウフシュニットのつまみ付って…おいおい…オレら学生なんだが一応…
まァ去年、成人してるけどまだハタチで…ってか何だ、この量?!

…まだ午後4時前なのに…
コレもしかしてお前らのランチタイム?!
それとも豪華な午後ティー!??一足飛びにディナー?!

「ケンザキが持ってきてくれたモーンシュニッテとルバーブケーゼクーヘンは、後で切り分けて…ラウエンシュタインのショコラーデも、皆さんでいただきましょうね」
「いやケシの実の天板ケーキとか、赤い野菜入りのチーズケーキとか…チョコは…お前らだけで食…」
「これはヘルガどの、…わたくしどもに、かようなご厚情をいただき誠に、かたじけなく恐悦至極に存知…」
「おめえは少し黙ってろっ!つか遠慮しろっ!しかもさっきから日本語がおかしい!!」
「にいさんこそ、目上の者には、もっと敬意をもって接するべきでは…さきほどから態度も言葉づかいも、あまりに無礼で乱暴…」
「いや正しいぜ、お前は…正しいが……」

頭痛ぇ…。なんだ…この空間…

ってかオレがココに居ていいのか…って気がしてきた。
…ちょっと席外していいかな…いいよな…

「ところで少し、わたしから話があります。ジュン・ケンザキ」
「え?オレ?」

結構な量の飲食物をテーブルに並べた後、丸いメガネの奥から、ヘルガがオレの目を、まっすぐ見た。

「よろしいですか?…今、わたしの書斎へ来ていただいても」
「あァ…かまわねえぜ?」

なんだ?
と思ったが…
いや…助かった…
ような気がする…。

なんなんだ、殉の奴…つまり敬語を、時代劇で憶えたのか?…それを今、実践でいきなり使おうと…そのスタート地点が完全に間違ってる。って先に言うべきだった…。
てか…あいつ…センターと二次試験の現代文とか…どうやって切り抜けたんだろうな…


キッチンの隣にある、自宅用エレベータ使って、下に降りた。
さすが特注デザイナーズハウス。
おもしれえ造り。

エレベータの扉が開くと、薄暗い。
そこから数段の低い階段下りて。

ドアノブ押すと、
奥だけ明るい。

暗がりに、そこだけ陽光が射し込み、明るく光ってる。
熱帯植物園みてえなガラス張りの温室を併設した、
半地下の書斎だった。

そこで、ヘルガが、

オレに言ったのは…

「……ああ、殉のことなら…」

暗い中、その切り取られた部分だけが妙に明るい、
ガラス板はさんだバオバブやガジュマルの苗木とウツボカズラの前で。

ヘルガは、
なんだ知っていたんですか?
って顔をした。

「今は元気そうに見えますが…。免疫系統にかなりの異常がみられます。 臓器も一部、機能不全で…神経組織にも異常が…骨格や筋肉も発育不全のうえに損傷が多く…
一見してわかりにくいのですが。経験値の高い優秀な医師なら、直感で変だと思いますね、たぶん普通の所見からでも…

大変、言いにくいのですが、…ケンザキ。
…もう…あまり…長くはもたないかもしれません…

そもそも全身の酷い傷痕もさることながら、自然治癒した打撲骨折だけでも1000ヵ所以上…
あなたの弟ジュンに、一体、何があったのですか?」

「何って…まァ…色々だ…」

言いにくいって…ざくざく言ってんじゃねえか。いまさら聴きたくねえぜ、そんな話。
と思ったけど。

「わかってるよ。そう、言われてんだ別の医者にも。だが殉には詳しいことは言ってねえ。
あいつには、具体的な話は黙っててくれ。
本人もだいたいわかってはいる、何となくだがな。いいんだよ、全部、承知の上だ。
…ただ…少しでも長く一緒にいたい…
今のオレ達には、それだけだ。
あっちこっちガタガタなのは…もう…仕方ねえんだ。それがオレらのフツーだと思って生きてる」

ヒップポケットに片手突っ込んだまま、
ウツボカズラの奇怪なカップみてえな姿睨んで、
そう返した。

ヘルガはしばらく黙ってた。

それから、

「そうですか。だったら…」

おそらく短い間しか一緒に居られないのですから。
後悔のないように…
たくさんたくさん愛してあげて下さいね?

って…そんなこと…
おめえに言われなくともわかってらァ…

って…言い返したかったけど。
なんだか、

…言葉にならなかった。

…畜生

「ここまで関わった以上、わたしたちも全面的に協力させていただきます。大学病院には、わたしの知り合いもいますから…ジュンの体の維持管理は任せてください」

いやなんか…メカのメンテスタッフみてえなんだけど…
って。
なんとなく思ったが。

ありがてえから受けることにした。
でも…
何て言やあいいのかな、殉には…。
つーかもう、このさい精神科の医者も紹介して欲しい気が…

「残念ながら、心療内科は、あまり腕のいい医者がいませんね。この国には」
「…そりゃあ……わかってる、が…」
「でも誰を診るんですか?弟のジュンくん?それともあなたのほう?」

半分、冗談だから。
マトモに答えてくれなくていいぜ。
何か今…すげえ気が滅入ってるし…オレ…


あァ。ありがてえんだか…迷惑なんだか…わかんねえ話されちまったなァ…いや、やっぱありがてえのか…そうだよな…

って…

またヘルガと一緒に狭いエレベータに入って、
…悩みながら上戻ったら、


スコルピオンと殉が、
テーブルに、

ビールの空瓶、タワーみてえに積み上げてた…。


オイ…どうなってんだ…お前ら…


「スコルピオン、てめえ!!…こいつにあんまり飲ませんじゃねえよっ!、体調良くねえの知ってるだろうが!」
「そうか?彼、強いぞ結構。それにベルリーナーヴァイセや、ラードラーなどはソフトドリンクの一種だが…」
「ビール狂のドイツ人基準で言うな!だいたいアジア人とはアルコールの分解能に差ァあんだよDNA的に。
…おい殉、おめえもいつまでもくつろいでんじゃねえ!他人の家を自宅みてえに!!もう用は済んだ。帰るぞ」

「にいさん、スコルピオンどのが夕餉にも、わたしたち二人をお招き下さるそうだ、しかも是非にも、と…」
「このうえ晩飯まで…っつか…だから何なんだよ?その時代劇用語みてえの、さっきから!」
「日本の武士道は、偉大だぞ?にいさん」
「酔っぱらってんのかおめえ。話、飛んでる」
「いやまだ酔ってない。一般論的に説明してるだけだ」

いやオカシイって。…いやわかるけど…
おめえの場合は、何か違うだろ。
子連れ狼とか座頭市とか…町奉行と町医者の話とか、鬼の面かぶった鬼退治とか、銭投げる岡っ引とか、水戸の御老公とか…何かそんなだろうが!?
それ武士道じゃねえよ。ただのエンタメ…

「いえ、その通りです。日本のブシドーは偉大ですよ?ケンザキ…ただし水戸のご老公と大岡越前は、初代が好きです」

って…おめえもDVD全巻とか両手に抱えてんじゃねえよ!ヘルガ…
何この二人、気ィ合ってんのか?
古ィ時代劇ファンの懇親会かココ!?

「ケンザキ、彼らはそっちの世界に忙しいようだから。我々は別の話をしよう」
「……」

いや何だよ、スコルピオンおめえは…。
奥のキャビネットから高そうな酒出してきやがって…。

「わたしの考える、新しい教育論と、反・大学改革の話だ。キミの意見をぜひ聞きたいのだが…」

……それ……教授が、学部の学生に聴くことか?…
…しかも酒飲みながら…

せめて博士の学生だろ…大学改革の方向性と、教育行政批判で、盛り上がりてえなら…


けど…

なァんか…もういいや…

と…思っちまったオレが…

……敗けなのか…コレ…






◇to be continued◇