「ちっくしょう………」

乱暴に下草を踏みつけながら、ソードは森の中を歩いている。シバの砦を後にしてから、

やみくもに飛び回り、気がつくとここに来ていた。しかし、今の彼には、そんなことはど

うでもいい。とにかく、さっきから無性にハラがたって仕方ない。

「ああっくそっアタマにくるぜ!!」

脳裏には、先刻シバの砦で見た、強烈な魔力の輝きが浮かんでいる。上級魔族同士の、そ

れも、サタンの側近中の側近と、シバ・ガーランドの闘い。どっちも、身震いがするほど

強大な魔力を操っていた。それも、ほんの挨拶めいた、気紛れな調子で。そして、自分は

そんなシバの背に守られて、身動きすら出来なかったのだ。

「くっそ〜〜〜……」

思い出すと、悔しさと屈辱で、全身が煮えくりかえる。

(だいたい、あいつもあいつだぜ)

吐きすてるように、ソードは思っている。結局シバは、自分を「親友」だなんのと言って

おきながら、魔力では、てんで相手にしていないのだ。

最初から庇われていたこと。シバ・ガーランドが、自分の前で実力を隠していたこと。そ

してそれを自分が全く気付かなかったこと……。

思うと、あまりの羞恥と屈辱で心の奥がグラグラする。

(畜生……どいつもこいつもオレをナメやがって……)

ほんの少しでも自分が認めた男に認められていると、思っていた自分にハラがたつ。

(なにが、『私の髪を上手に結べたら』だ!ガキ扱いばかりか……ふざけやがって!!)

初めて、憎しみに近い感情が芽生えていた。

(だから……あいつ……オレに暗黒魔闘術を教えようとは言わねーんだな。てめぇじゃ話

にならねぇって〜ことか!)

どこからどう考えても心が引っ掻き回される。けれど、本当に苛立だしいのは、無論、弱

い自分自身に対してだった。

(あいつも……あの悪魔も……マジで……強かったぜ……)

シバの背と閃光に隠れて、ハッキリとはわからなかったが、中央にいた男の全体の印象だ

けが、鮮烈なインパクトになって残っている。

(バジルなんとかっていいやがったか……。シバが魔界四なんとかって言ってたよな…

…)

位の高い悪魔のことなど、ソードは興味もないし、よくわからない。

ただ、あの悪魔はどことなく………

少し、シバに似ていると、思った。圧倒する魔力も。天使のような豊かで長い髪も、美し

い容姿も。そして、何か、己の確固たる目的に沿って動いている、譲らない所作も……。

「畜生!!」

再び叫んで、ソードは、おもいっきり足元の木の根を蹴りつけた。

(どうして……)

自分は………あの2人の高みに行けないのだろう?

どうして………?

しょせんは、下級魔族だからか?

そんなことは認めたくない。いや、認めない!!

「ちっくしょう-----っ」

意味なく叫んで、あたりに魔力を叩きつける。当たった幹がメキメキ裂け、ザワザワと木

の葉がとび散った。いくら当り散らしても、気が晴れない。拳が割れて血が吹き出して

も、ソードはやみくもに力を振るい続けた。

「………?」

ふと見回すと、周囲を独特の悲鳴が包んでいる。体液のような樹液が吹き出し、かつて

木々にとりこまれた低級悪魔や木そのものの魔族たちが、怨念じみた不協和音をたててい

た。

「なんだよ……ここは……?」

生々しい植物の臭いがする。あぁ、とソードはその時はじめて気がついた。

「ここ……幻樹海じゃねーか」

うっそうとした森には、悪魔の顔が浮き出た太い幹がいくつも並び、薄気味悪い声があち

こちから聞こえてくる。痛みも意識もない、ただの条件反射で叫ぶ木々たちを見回し、彼

は軽く舌打ちした。

「ま、どーせここに来るつもりだったが……ここで特訓するのはいいとしてよ〜……木な

んか相手にしたって仕方ねーぜ。戦うなら……せめてオレより強ぇー野郎じゃねーと…

…」

そんなふうにボヤいた時、

「ふぅむ。虫ケラのくせに、ずいぶん自信があるのだな」

「?!」

急に背後から、はっきりした悪魔のコトバに打たれ、とっさにソードは振り向きながら

10歩ほど飛び下がって身構えた。

「誰だ……てめぇ?」

「貴様……さっき会ったばかりだというのに、もう見忘れたのか」

気配を消して近付いたその男は、ゆっくりこちらに向かって進んでくる。人並みな容姿だ

が、体の大きさが少々くどい。上目遣いに睨んでいたソードは警戒しながらも、呆気なく

答えた。

「……………?知らねぇな。誰だ?」

そのとたん、男の頬に侮辱された怒りが浮かぶ。冷静な調子から一転、狂気の形相で、突

然ソードめがけ飛びかかった。

「ならば、忘れぬようにしてやるわ!このドゥーガ・ランド様の実力をなあ!!」

「はぁ?……ドゥーガ・ランド?」

寸前でかわして、ソードは、自分の肩に手をあてる。すれ違いざま正面から男の顔面を狙

い、脱ぎ捨てた肩当てを投げつけて頭にマントをばさりとかぶせた。

「うわぁっぷ」

かぶった布の下でドゥーガがひとしきりもがいている。ようやく引き裂いて投げ捨てるの

を眺めながら、ソードはなお冗談のような顔をした。

「やっぱ、知らねぇなぁ。聞いたこともねぇ」

「貴様……このオレを愚弄しおって………下級悪魔ふぜいがシバ・ガーランドごときに気

に入られているからといって図に乗るな!!オレにはサタン様の側近、四元将のお一人、

ガラム様がついておられるのだぞ?!」

ごつごつした握りこぶしが、ぶるぶる震えている。冷静ぶって人型を保っているが、本体

はキレやすい獣のようだった。

「ああ、もしかしておまえ、さっきシバの砦に来た……一番後ろにいた奴か?」

やっと思いついたように、ソードは笑った。

「作り物のツラぶらさげた下級悪魔だろ?」

「なにい……」

一番嫌な図星を突かれた顔で、ドゥーガは唸った。ソードはカラカラ笑っている。

「てめぇも、その四なんとかに取り入って、実力もねぇくせにのし上がろうってセコいク

チか」

「貴様……調子にのるなよ?貴様だってそうだろうが!!」

「フン。あいにくだがな、オレはてめぇとは違うぜ。出世にも手柄にも興味ねぇし、だい

たい……」

と言ってソードは、いまいましげに怒鳴った。

「シバの野郎が勝手に親友だなんだとほざいてるんだ。オレには関係ねーぜ!」

「貴様……いい気になるな!!」

どこか不安定にバランスが狂ったように、ドゥーガが叫んだ。

「一緒にするなとはこちらのほうだ!オレは……オレには……貴様なんかと違って特別な

力があるのだ!!だから……」

「だから、ホントは低級魔族だったのに、よーやく、その体をどっかで手に入れて、下級

悪魔にまでなり上がったってか?今戦った感じでわかったぜ」

「な……なに……」

「ホンモノのツラじゃあ、バケモノすぎて上級魔族につき合ってもらえねーから顔も変え

た、そんなトコだろ?」

「こ……この……」

怒りのあまり正気を失いそうな声を絞ったドゥーガが、そのまま一気に間合いを詰めて再

び襲いかかる。危うく保った理性で、彼は叫んだ。

「ただのバカかと思えば、少しは頭が働くではないか!!だが、貴様だって同じはず

だ!!いや、本当に実力がないのだから、オレよりも浅ましかろう!!」

「バァーカ!てめぇなんかと、まとめるんじゃねぇ!!オレはなぁっ!いつか必ず…」

言いながら、ソードは渾身の力で手のひらに集めた魔力を叩きつける。

「自分の力でシバを越えてみせるんだ!!」

青い光が辺りを切り裂き、かすったドゥーガの肩を吹き飛ばす。

今はじめて自覚した、たった一つの、けれど絶対の決心のように、ソードは叫んだ。

「オレは……いつかシバの野郎を叩きのめして、あいつに土下座させてみせるぜ!だから

なぁ!てめぇみてーなセコ悪魔は最初から眼中にねーんだよ!!」

「馬鹿な……」

気迫に押されたように、ドゥーガは、唖然と突っ立っていた。

あのシバ・ガーランドを実力で叩きのめす。そんな無謀なことを考える下級悪魔がいるな

んて……。

(だが、オレには魔目がある)

ソードを追ってここへ来た本当の目的もすっかり忘れ、ドゥーガは、突然不敵に笑った。

「不可能な大口ばかり叩きおって…貴様の卑しい本心を暴いてやろう」

「はぁ?」

(どうせ、ハッタリに決まっている。オレの心を読む力を使えばすぐに化けの皮がはがれ

るはず……)

しかし、勝ち誇った顔がみるみる青ざめた。

固い意志と、少しも嘘のない、高潔なほどの美しい魂が静かに光っている。

こんな魂は見たことがない。

「本当に………」

恐怖のあまり憎悪に変わってしまったような声で、ドゥーガはつぶやいた。

「貴様を引き裂いてやりたくなったぞ。ソード?」

「フン、てめぇごとき、やれるもんならやってみやがれ」

「ならば、貴様の魂を……一番残酷な方法で引き裂いてやる!……そして…」

「?!」

と………。

ドゥーガがそこまで言ったとき、突然、辺りの景色がガラリと変わった。一瞬のうちに樹

木が枯れて土色の世界が広がってゆく。何か、2人以外の、もっと強力な力がその場をお

おいつくしているのだ。ギクリと警戒で立ちすくんだ瞬間

「なぁ?!」

急に衝撃を覚えて、ソードが叫んだ。

振り仰いだ彼の背を、背後からがっちり掴んだ者がいる。巨大な手のようなものが凄まじ

い勢いで飛きて、いきなりソードの体をつかまえていた。



「何ヲシテイル」

とその手が言った。

「ドゥーガ……オマエノ仕事ヲ忘レタノカ?」

「はっ……も……申し訳ございません。つい……」

うろたえて正気に戻ったドゥーガが冷や汗を流している。ソードは、懸命に逃れようとも

がいて、わめいた。

「てめぇ〜〜!!放しやがれ!!いったい何なんだよ?!」

「馬鹿が!」

と言ったのは目の前のドゥーガだ。嘲笑って、彼は言った。

「ガラム様のお体に宿る魂の一つ……つまり、おまえは四元将の魔力に捕われたのだ」

「なんだとぉ?!てめー卑怯だぞ!いきなり後ろから〜〜!!」

「フン。悪魔の戦いに卑怯も何もあるか。悔しかったら、自分の力で逃れてみろ。さっき

貴様が言ったようにな?」

「く……」

けれど、ものすごい力だ。いくら魔力を振り絞っても、まったく体の自由がきかない。よ

うやく余裕を取り戻したドゥーガが勝ち誇った笑いを浮かべて近寄った。

「さて、それでは、貴様に一つ聞きたいことがある」

「な……なんだよ?」

「貴様……少し前に、この付近で低級魔族の群に会っただろう?」

「あぁ〜?」

「その時、瓶を拾ったはずだが、それは今、どこにある?」

「瓶だと……?……」

「そうだ!さっさと思い出せ!!」

「ぐぁッ」

ドゥーガの右手が、ソードの首をひとつかみにして絞め上げる。指を食い込ませ、苦しむ

ソードの顔を楽しみながら、彼は笑った。

「貴様は知っているはずだ」

「瓶……だとぉ?!……そんなもん……知るかよ!!」

(フン……。確か、酒なら拾ったけどよ……)

ソードは大声で怒鳴りながら、心でそっと付け加えた。

(シバが、椅子の下に置きっぱなしにして……そのまま……。けど、こんな野郎に教えて

やるか!)

「ふん。それだけ聞けば、十分だ」

「な…なんだと……?!」

「だから言っただろう?オレには貴様ごときとは違う特別な力があるのだと」

「うあぁッ」

そのままさらに力を入れてギリギリ絞める。その時、背後からつかまえていた巨大な手が

ドロリと溶けて、ソードの全身に触手のようにからみつき、すっぽりと覆いはじめた。

慌ててドゥーガが飛び退る。その目の前でくぐもった叫びが凄まじい魔力に封じられてゆ

く。

「な?!やめ…ろ!!……こ…の…」

繭に包まれたような体は、しばらく暴れていたが、少し経つと動かなくなった。

気を失って倒れたソードの体から再び離れ、もとの形に戻った巨大な「手」が、青くなっ

て見つめているドゥーガに向かい、抑揚のない声で指図した。

「コノ悪魔ハ殺スナ、トノ仰セダ。コノ魂ヲ使ッテ計画ヲ…………」

「は……はい」


『手』が、現れたときと同様に、突然飛び去ってしまうと、残ったドゥーガは、倒れてい

るソードの髪をつかみあげた。そのまま、片手に獲物を下げるように引きずりながら、奥

に向かって歩き出す。そして、樹海の暗がりへと消えた。










ソードが、帰ってこない。

あれから、もう3日。何の連絡もないまま、出ていったきり部屋に戻ってこない。そんな

ことは、居城に連れてきて一緒に住むようになって以来、数え切れぬほどあったが、今度

ばかりは嫌な予感がして仕方ない。

高い塔の上に立って、シバは、ずっと考えこんでいる。

今も、魔力を使って広範囲にソードの気配を探してみたが、全くそれらしき気を感じな

い。彼の魔法で見つからないということは、

(すでに死んだか……それとも……)

彼と同等か、それ以上の力を持った者に、捕われているか……。

あれから魔界は雨ばかり続いている。見回すと、あちこちに広がる森や荒野がどれも同じ

ような鉛色に濡れそぼっている。シバの長い髪もさっきから水を含み、額には雫が流れて

いた。

魔力で付近の天候くらいは変えられる彼だが、今はどうも、そんな気にもなれない。全身

びっしょり濡れた姿で、それでもずっと庇もない塔の一番上に立っている。

「何をしているのだ」

不意に、頭上に強い魔力が起こり、淡い色の髪を長く翻した男がふわりと現れた。

「バジル……」

やや驚いた顔で、シバはその場に立ったまま、特に構えもせず目の前の悪魔を見つめてい

る。シバとよく似た瞳で、バジル・ホ−ネットが笑っていた。

「ひどい格好だ。あなたともあろう悪魔が」

彼はそう言うと、すぐに右手を頭上にさし上げて水を操る呪文を唱える。終わると、主の

言いつけに従う下僕のように雨は2人を避けて降り出した。

「誰かを探しているのか?」

口許に微笑を残したまま、案外、真面目な瞳で、この水使いは言っている。シバが黙って

いるので、彼は

「いや、そんな魔法を使っているのが上から見えたからな」

と説明して苦笑した。シバは、その様子を少しの間眺めていたが、ふいに視線を逸らす

と、遠くに広がる森の方を見つめてつぶやいた。

「ソードがいなくなったものでな」

「あの下級悪魔か?」

「心当たりがあれば、教えてほしい」

それを聞くと、とたんにバジルの口許が引き締まる。そうしてしばらく黙っていたが、彼

もシバから視線を外すと、荒野に向かって視線を落とした。

「シバ……」

「………?」

「私は……私なりに、あなたが好きだし、気も合うと思っていた」

「…………」

「しかし、最近のあなたの行動はとても理解できない」

「…………」

「ソードといったか?そんなにあの悪魔が大切なのか」

「………そうだな」

言って、それまで遠くに放っていた瞳を戻す。つられて、バジルも視線を戻す。まっすぐ

に相手を見つめながら、シバははじめて微笑んだ。

「あれに正面から相対してみろ。そうすれば……いずれ、わかるさ。私の気持ちがな」

おまえだって、きっとソードに惹かれる。

そう、シバの目が言っている。

ふぅ、と息をついて、バジルはもう一度苦笑した。

「その様子だと、何を言ってもムダのようだな。察するに……一目惚れか?」

ちょっと考えて、彼は素直に頷いた。

「うん。案外…………そうかもしれん」

答える瞳も微笑んでいる。はっとするほど、優しい瞳だ。そう短くもない付き合いだった

が、これほど深く穏やかな笑みに触れるのは初めてだった。ソードの話をすると、いつも

冷めた表情がとたんに鮮やかで豊かに変わる。

(ひどく楽しそうに話すのだな……)

バジルは、やれやれ、と大袈裟に肩をすくめてみせた。

「あの時、私も……もう少し、あの悪魔をよく見ておくのだった」

「……?」

「あなたに、そんな顔をさせる相手の顔をね」

「バジル……?」

「わかった」

と急に、改まって、彼は言った。

「あなたの気持ちはよくわかった。だから、私の知っている限りで協力しよう」

「バジル……まさか、おまえが………」

いきなり剣呑になった視線にやや驚いて、バジルは真面目な顔で笑った。

「いや。彼の行方は私も知らないのだ。ただ、ひとつ気になることがある」

「気になること?」

「最近、よく低級魔族や下級悪魔が行方不明になる」

「そして、幻樹海の出口で魂を抜かれた死体が見つかるのだろう?知っている。私も使い

魔に調べさせた」

すぐに引き取った彼に、バジルが続けた。

「では、その死体の近くに必ず奇妙な液体が落ちているのは知っているか?」

「妙な……液体?」

「特徴がはっきりしているから、一度見ればすぐわかる。何か…低級魔族を搾り取ったよ

うな……コロイド状の濃い黒色の液体だ。死んだ悪魔の体内にも多量に入っていた」

ふーん。という顔で、シバは軽く頷いた。

「それでは、幻樹海で作った何か特殊なもの……それを使って誰かが下級悪魔を殺してい

ると?」

「おそらく」

「……だが、なぜ殺す?目的はなんだ?相手に心当たりはあるのか?」

「目的はまだわからない。ただ……もしかすると……ガラムが関わっているかもしれん」

「四元将の一人、ガラム・ハーネスだと?」

シバの細い眉が神経質にハネ上がる。バジルはキツい表情で続けた。

「このところ奴の挙動には不審な点が多くてな」

ふむ。と、いったん頷いてから、シバは先をせかした。

「………で?それとソードがどう関係するのだ?」

「あなたの砦に行った時、ガラムが一緒にいただろう?あれは、サタン様の指令でも、私

が命令したわけでもなくてな、奴が勝手についてきたのだ」

「なに?」

それは、妙だ。日頃のガラムを知っていれば、誰でもそう思う。傲慢なガラム・ハーネス

は時折、四元将の長であるバジルの命令ですら公然と無視することがある。とにかく、用

もないのに他人の砦に自ら足を運ぶような男ではない。

「あの時……あのガラムが下級悪魔を連れていただろう?」

「そうだな。妙な男を連れていた。あれは何者なのだ?」

「私もよくは知らんが……他人の心を読む力を持った奴らしい」

「心を……読む……だと?」

シバはいっそう不可解な顔をした。

「あなたも知っての通り、ガラムは我々の中でも特に気位が高い。普通なら、下級悪魔を

そばに置くはずがない」

「では……」

そこを曲げてまでも、必要があったのだ。

「私か……それともソードの心を読む必要があったと?」

「確証はないがな」

なるほど、とシバはやや納得した顔になった。けれど同時に渋い表情を浮かべている。

「もし、ソードが何らかの理由でガラムの元に捕われているのだとしたら、私の魔法で探

せないのは、わかる」

「ガラムもあれで四元将の一人。奴が一度魔力で作り上げてしまったフィールドには、例

えこのバジルでも介入はできない」

「わかっている。例えそうだとして、証拠がなくては問い詰めるわけにもゆかぬ、という

こともな」

結局、この段階では、どうすることもできないのだ。すべては推測にすぎないし、わから

ないことが、多すぎる。

しかも、消えたのが上級悪魔ならともかく、低級魔族や下級悪魔では、たいして大騒ぎに

もなりはしない。

「このことをサタンは……?」

「一応、御存じのようだが……さして興味はなさそうだった」

気紛れなお方だから、とバジルは言ったが、それから少し気遣わしげな顔で目の前の悪魔

を見つめた。

「とにかく、私ももう少し調べてみよう。だから……」

「…………?」

「早まったマネはしないほうがいい」

「ああ、なるべくな」

どことなく気のない返事で、シバは幻樹海の方角へ視線を向けている。

「何かわかったら知らせてくれ」

読めない表情でそれだけ言うと彼は、ふっと姿を消した。後に残ったバジルは、少し不思

議な思いにとらわれている。

「悪魔ソード……か。いったい、そこまでシバを動かすとは……どんな悪魔なのか……」

久しぶりに興味のわいた顔で、彼は雨雲のたれ込める重い空を見上げている。

(それにしても、ソードとやら……まだ、死んでいなければ良いがな)










頭が、重い。体も、うまく動かない。

無理に覚醒された瞳が、ぼんやりと宙を彷徨っている。

(オレは…どうなってんだ?………ここは……どこだ?)

徐々にハッキリした意識が、少しずつ思い返している。

(変な魔力につかまって………それで………)

それで……。

「な………に……?」

ようやく焦点を結んだ瞳が、愕然と見開いた。

岩から這い出した木の根の絡まる、暗い天井が見える。

硬い石の寝台に仰向けに寝かされている。そして、それをとりまくように、5〜6人の悪

魔が立ったまましきりと何かを話していた。

(なっ……なんなんだ?!これは〜〜〜?!)

跳ね起きようとして、ソードはうっと呻いた。手首に、魔力を封じる鎖のついた金属の環

がはめられ、両手を広げまま寝台に固定されている。しかも、全身が何かの呪いがかかっ

たように重く、自由がきかない。着ていた服はすべてはぎとられ無防備な裸体を曝してい

るが、叫ぼうとしても、声すらうまく出なかった。

その横で、人のような獣のような姿をした悪魔たちが奇妙な壷をかき回しながら、しきり

に何か話している。中に、ドゥーガという男もいた。

「つまり……魂を取り出して加工できればよいのだろう?」

彼らの一人が言っている。

「だが、これまで失敗ばかりだ」

「低級魔族で、やっと成功してはみたものの……せっかく取り出した魂は使いものになら

ぬクズばかり」

「やはり、せめて下級悪魔の魂か」

「だが、それも無駄に殺してばかりで、いまだ成功していない」

「しかし……」

壷からドロリとしたたる真っ黒い液体をすくいあげた男が言った。

「こいつの使い方次第……のはずだろう?」

そこで彼らは、一斉にソードの方を見た。

「ふん……意識が戻ったか」

独り、ドゥーガが近付く。ソードの顎をとらえて顔を近付けると、下卑た息を吹きかけ

た。

「だが、その意識はまた消える」

「な……んだと……?」

ようやく声をひき出して、ソードは睨んだ。

「てめぇら……何コソコソと企んでやがんだ……?セコ悪魔どもが寄り集まって……」

「貴様の知ったことではない。ただ、これから……」

細い顎を掴んだ指に力をこめながら、残忍な瞳が細く歪んだ。

「貴様の魂を抜き取らせてもらう」

「オレの……魂を………?!」

「無論、身体は棄てる。貴様はここで死ぬのだ。ただ、魂に使い途があるかどうか、試し

てやろうというのさ。もっとも、使うのはオレたちではないが……」

「ふざけるな……!!」

理不尽な怒りで、ソードは怒鳴った。どうも、さっきから聞いていると、よくはわからな

いが、悪魔の魂が必要らしい。そして、こいつらは今まで何人もの悪魔を、同じように殺

しているのだ。

「オレの魂はオレのもんだぜっ!!てめぇらなんかに好きにされてたまるかっ!」

「それは、違うな」

「なに?」

「弱い悪魔は、強い悪魔のものだ。弱者には自分をどうする権利もない。そうだろう?」

「く………」

またかよ。という顔で、ソードは唇を噛んだ。

それは、そうだ。この魔界では、弱者にどんな権利も認められてはいない。すべては強い

者のために。自分よりも魔力のある、位の高い魔族には、犯されても、殺されても、当た

り前以上に何一つ文句など言えないのだ。

(けど……シバは……?)

急に、砦で陳情を聞いていた姿が浮かんで、ソードは、はっとした。

(シバは違う……。少なくとも、あいつは……)

「残念だったな」

しかしそれを遮って、ドゥーガが笑った。

「シバ・ガーランドはここには来れない」

「な……?てめぇ……」

ぎょっとした顔で、ソードは自分にのしかかっている大きな男を見上げた。ドゥーガは優

越感に浸った卑しい顔で笑っている。

「だから言っただろう?」

「な……んで……」

「オレはな、貴様らの心がすべて読めるのだ。その力で、ガラム様にお仕えしている。こ

こは、あの方のフィールドの中。たとえ、シバ・ガーランドがどれだけ強大な魔力を有し

ていても、四元将が一度作ったフィールドの中には踏み込めない。助けを呼んでもムダだ

ぞ」

「るっせぇ!!」

最後の言葉にカチンときて、ソードは喚いた。

「誰が、助けを待ってるって言ったよ?!ただな、てめぇらがその四なんとかとつるん

で、ワケわかんねーセコいことしてやがるのだけはわかったぜ。んな、くだらねーこと

に、よくもこのオレを巻き込みやがって……ぜってーてめぇら全員ブッ殺してやるから

な!!」

「フン。威勢のよいことだ。では、そのイキのいい魂を試すとするか」

ドゥーガは笑ったまま振り返り、他の悪魔に目配せした。

一人が近付き、気味の悪い黒い汁を小さな瓶に移す。瓶をソードの目の前で振りながら、

その男はニヤニヤ笑った。

「こいつが何かわかるか?」

「知るか!!」

「最近、オレたちが幻樹海で見つけた魔族がいる。悪魔の魂を封印してしまう、という変

わった魔族だ。普通は生きたまま悪魔の体内に入って魂を喰う。だが、そいつらを捕まえ

てな、体液を搾り取り、身体をすり潰して、コイツを作った」

げっという顔をして、ソードは気持ち悪そうに、眉を寄せた。

「こいつを、ある方法で悪魔の体内に入れると……入れられた悪魔の魂が、きれいに取り

出せる。つまり、魂と肉体を上手に分離してくれるんだ」

「ケッ!それで、他の悪魔をこれまで何人も殺してきたのか?!」

「まぁね。ただ、残念なことに、今まで完全に上手くいったことがないんだよ。被験体の

悪魔の拒否反応が強すぎて、魂が、身体ごと壊れてしまったり、魂を分離できても、それ

が使えなかったりな」

「魂なんか、何に使うんだよ?!」

「それは、貴様の知るところではない」

とにかく。と言いながら、その男は陰気な瞳で続けた。

「そこで我々も色々試してみたんだが……。これがよく身体に馴染んで、身体から魂を引

き剥がしてくれる方法をね」

「な…?」

「魂とは、苦痛や快楽に弱いものだ。特に肉体からの刺激に敏感に反応する。だからね、

体に強い刺激を与えながら何度かこいつを入れると上手く魂が取り出せる……ということ

がわかったのさ」

言いながら顎をしゃくると、他の2人が寝台の両側に回り、ソードの足を、それぞれ片方

ずつ押さえた。

「な……なにしやがる?!」

「たぶん、一番いいのは、セックスの時に使って身体に憶えさせることだ。悪魔の体は快

感には特に素直に順応するからな」

素足に、悪魔の手の感触を感じる。太股から持ち上げられ、左右に広げられた足の間に、

寝台に乗ったその男が自分の膝を割り込ませた。

「て……めぇ……」

「心配するな。死ぬ前にちゃんといい思いをさせてやるよ」

その場の全員が注視する中、その悪魔の触手じみた中指が双丘の谷間に入り、位置を確か

めるようにゆっくりそこを撫でまわした。

「アゥ……やめろッ……オレに触るな!」

ザワザワとした感触が這い上がり、ソードはなんとか下半身を閉じようと筋肉を強ばらせ

る。けれど、魔力も使えず、がっちりとつかまれた両足はわずかも動かせない。

「……の野郎……!手ェ離しやがれ!!」

「お前の為にコレを使ってやる。即効で強い催淫作用がある」

見せられた別の容器にソードはぎょっとした。高価な催淫剤だ。どんな奴でもすぐイかさ

れると、聞いたことがある。

(畜生……あんなもんでオレを……)

身体をダマされる感覚は最高に癪にさわるが、抵抗できない。クリーム状のものをすくっ

た指が、曝された秘所に入り込んだ。

「アァうッ…イヤ……だ……」

ねっとりとしたものを体の奥に入れられ、ソードは、一瞬あまりの不快にかぶりを振っ

た。その間も、男の指はそれを念入りに塗りこめながら軽く関節を曲げ、ソードの性感部

分を強く擦っている。粘膜から吸収された媚薬はすぐに全身に回った。

「ア……ア……アッ……」

意思と関係なく、そこに血が集まり、徐々に充血していくのがわかる。抑えられない欲求

が募り、指の動きに合わせて腰がもどかしげに捩れた。

「あうぅ……アッ……アァ……」

半分以上勃ち上がってしまったソードのものを更に丁寧に裏筋だけ根元から先まで扱く

と、敏感な身体は髪を振り乱し喉を反らして苦悶した。

「やッ……やめろッ……あぁッ」

頬が上気し、ドクドク全身が脈打っている。ところが、ここで急に指を引き抜いて、彼は

寝台を下り見回した。

「これでいいだろ?もう待ってるぜ?誰か、してやれ」

それから肩をすくめ、アナルは先端までの締めつけがないから俺は入れるなら女のほうが

いい、と言った。

「俺が……」

代わってドゥーガが前に出る。それを見ると、指を拭っていたその悪魔がすかさず釘をさ

した。

「大切な実験材料だ。今度は壊すなよ?アンタはいつもキレると見境がなくなるからな」

「わかっている」

少し面白くない顔をしたドゥーガは、それでもソードの前にくると、気味の悪い喜色を浮

かべて、自分のものを取り出した。

「う………」

身体相応だ。その巨きさを見てしまったソードの腰が引けている。その状況でムダと知り

つつ半ばヤケのように彼はわめき散らした。

「てめぇ!!マジでそんなモン、オレに入れる気かよ?!やめろ!!馬鹿野郎!!!……

……ウアッ……」

いきなり、硬くぬめった感触が秘所にあたった。ズル…といったん入りはじめたそれは、

すぐにひっかかって動かなくなる。

「やめろォ!!この変態野郎!!!」

首を振ってもがいたソードをじっと眺め、その反応を楽しみながら、ドゥーガはムリヤリ

己をねじ入れた。

「……ぐあァッ………アアアッ」

悲鳴が、途中から嗚咽に変わる。快感よりも激痛で、ソードの身体が痙攣している。その

まま激しく往復運動を始めると、ドゥーガに比べ極端に華奢な身体は、滅茶苦茶な悲鳴を

上げて跳ね上がった。

「アアッ……アアッ……アアア」

上半身をよじって、逃れようともがくたびに、手首に食い込んだ金具が血を滲ませる。

さっきの男が慌てて声をかけた。

「おい、あまり趣味に走るな。よがらせてやらなきゃ意味ないんだぜ?」

「刺激は痛みでも、いいんだろ?俺にも少し楽しませろ」

「アンタは十分楽しんでると思うがね」

その間も、ソードの悲鳴は続いている。まるで殺し合いでもしているように、鎖がやかま

しく音をたて、石の寝台が今にも割れそうなほど、響いている。ドゥーガは自分がのぼり

つめてくると、我を忘れ、獲物を殺す獣の目になった。

「ぐあッ……ヒッ……」

くぐもった悲鳴が途中で切れる。ドゥーガは腰を動かしながらソードの首に片手をかけ、

渾身の力で締めつけた。残った手で喘いでいるソードの頬を殴り、乳首をちぎりとるよう

に爪でえぐっている。

「ぐふっ……ア……アアッ……ア……」

唇から血が流れ、全身が激痛で痺れ、ただ苦しい。

(けど……)

朦朧としたまま、ソードは思った。これが本来、悪魔の犯し方だ。相手のことなど、頭に

ない。自分さえよければ、相手を殺してもかまわない。

「おい!また死ぬぞ!!」

もう一度、さっきの男が声をかけた。

「おいっ!よせ!!そいつがアンタの物ならともかく、俺達には別な目的があるんだぜ?

……だからアンタは低級魔族上がりだって言われるんだ!!」

その言葉に、すっとドゥーガが静かになった。





足許に、さっきドゥーガを止めた悪魔の死体が転がっている。

しかし、他の悪魔たちは何事もなかったかのようにその死体を器用によけ、ソードの身体

を押さえつけながら、その反応を窺っていた。

一人殺したことで並みに落ち着いたドゥーガのものが、今度はゆっくりソードの中を抜き

差ししている。

「あ……う……ぅ…」

中で、ぬるぬるしたものが動くたびに、ソードの呼吸が荒くなった。すでに不快な異物感

と苦痛は麻痺し、体が無理に開かれている。

(ちくしょう……)

そう思って舌を噛むが、あの後、更に倍以上の媚薬を入れられ、意識が半分怪しい。それ

でも噛み切った痛みと血の味で、残った正気をかき集めていた。

(いったいこいつら何なんだ?何でオレを……?瓶がどーのと言ってやがったが、あの酒

瓶…酒じゃなくて……さっき見た黒い……気持ち悪ィモンが入ってやがったのかも……)

ドゥーガの感触を忘れようと、懸命に頭を使ってみる。先刻の半殺しのような行為より

は、まだ考える余裕があった。

(だったら、シバの所にも何かいってるハズだぜ。あいつが簡単に殺られるわけねーが…

…。ぜってーこいつらをブッとばして……ここを抜け出して……そんで……あの上級魔族

が何か妙なこと企んでるって…シバにも…教えてやんねーと……)

その間も、少しずつ早まったドゥーガの動きが、間断なく彼の内部を陵辱している。

「…あ……ぁ……」

いかつい大きな手で袋を揉まれ、親指で先端を嬲られると、少し気持ちよくなって、ソー

ドは無意識に足を広げた。

「フン。今度は……悦いみたいだぜ?」

「そうだな。じゃあ、例のものを……」

頭の上のほうで声が聞こえる。

と、いきなり顔面を別な悪魔の手で覆われ、呼吸を止められて、ソードは呻いた。

「ウアッ……あ……ぐ……」

そのわずかに開いた口を、大きくこじ開けられた瞬間、ドロリとした無気味な感触の生臭

い液体が口内に溢れる。

「アアア……あう……あ……」

何をされているのか、とっさによくわからない。ただ、息ができない身体は早く楽になろ

うと、それを飲み込もうとする。咳き込んだ拍子に、喉が動いて一気に流れ込んだ。

思わずげぇっと吐きそうになったソードの頭を押さえ付け、2人の悪魔は、瓶ごとドクド

クつぎこんでいる。

(さっきの……黒い……)

ゾッとしたとたん、ドゥーガに内蔵を突き上げられた。

「ぐあ……アウ……」

猛烈な吐き気がする。身体の中味をすべて嘔吐してしまいたい。

なのに、頭上で、陰湿で淫猥な笑いが響いた。

「おい、そんなに一度に入れたら……」

「これで死ななきゃ見込みはあるぜ?取り出した魂も使えるかもしれねぇ」

「確かにな」

(ちく……しょう……)

悔しい……。と、ソードは思った。

死ぬよりも悔しい。こんなメにあわされても、力のない者はやはり仕方がないというのだ

ろうか?

(ちくしょう!……オレは……絶対に………)

こんな奴らに魂なんか、渡さない。こんな得体の知れないものを飲まされたくらいで、心

を売ったりしない。

絶対に克って…………

「オイ、見ろよ!こいつ、泣いてるぜ?」

「ヘェ?」

それが生理的なものなのか、あまりに悔しいためなのか、ソードにも、もうわからない。

ただ、なんとなく、こんな情けない姿をシバ・ガーランドにだけは見られたくない。そん

な気がした。

(シ……バ……)

不意に、金茶色の髪が翻る優しい微笑みが浮かんだ。形のよい唇が小さく笑っている。

『私の髪を上手に結べたら……次を教えてやろう』

そう言った声が、もう一度、聞こえた気がした。

(あぁ……なんだ……そっか……)

どうしてこんな時にそんなことを思ったのかわからないが、ソードは、唐突にひらめいた

ように感じた。

(あいつ……別に……オレをバカにしてるわけじゃねぇんだ)

少なくとも、シバだったら………

こんな踏みにじった抱き方はしない。

こんなふうに魂を蹂躙しない。

たとえ負けて悔しくとも、もっと爽やかで、希望のある悔しさだった。

(シバ……)

なんだか急に会いたい気がした。けれど、ソードが呼びかける前に、優しい幻影は遠の

いた。

「あうぅ……う……あ……」

急に魂をつかみとられる苦痛におそわれ、ソードは悲鳴をあげた。全身にまわった液体が

身体を侵食し、魂を食いちぎっている。同時にどうでもいい怠惰な意識にまるめこまれ、

消えかかったシバの幻さえ、このままでは、誰だったのか思い出せなくなりそうだった。

「く……」

唇を噛み切って抵抗したが、すぐに、それも出来なくなっている。ドゥーガに犯されてい

ることすら、どうでもいい。身体だけが、なにも考えずに、快楽をむさぼろうとしてい

る。

しばらくすると、どこか遠くで声が響いた。

「だいぶ慣れたようだ。例のモノも効いている。かなり手こずったがな」

「ふん。そのうち自分から欲しくなるさ。習慣性のある植物も刻み込んである」

「こうなると、哀れなもんだな。いくら、シバ・ガーランドがいても、もうどうすること

もできまい」

「いいさ。ガラム様は、どうせシバも抹殺するおつもりなんだ。できればバジルもな」

「あの方はご自分が魔界の頂点に立って、サタン様の一番のお気に入りになりたいのさ」

また、嫌な笑いが聞こえる。しかしそれを耳にすると、朦朧とした意識が少しはっきりし

た。

(くそ……オレは……絶対……負けねぇ……)

霞みかけた頭と瞳を懸命に開いて、ソードは必死に何かを守ろうとしている。

何かを……。己の魂だけでなく、もっと深く大きなものを。

もっと高く潔らかで、大切なものを…………。

◆to be continued◆