日中なのに、いつもよりいっそう暗い空。

薄暗い魔界の、重苦しい曇天に、低い雷鳴が響いている。

低く吠えるような響きが、さっきよりも近い。きっと、もうすぐ雨になる。

濡れたら、余計に痛むかもしれない。

そう考えて、シバ・ガーランドは、苦い笑いを浮かべた。

胸を押さえ、進む足どりがだるい。

(私としたことが……不様なものだ……)

タメ息をついて辺りを見回すと、鉛色の草原に、まばらな木立が広がっている。見通しはいい

が、生き物の影が見当たらない。

ここずっと、つきまとっていた魔族の気配も消えている。

(サタンは……私の監視を解いたのか……?)

それでも、いいのかもしれない。もう、あえて警戒する必要がなくなったということなのだろ

う。

「それも…どうかと思うがな………。……ッ…」

胸に刻まれた刻印が、痛い。

一本だけ目立つ巨木の幹に手をついて、フラつく体を支えようとした時、雷鳴が轟き、とうとう

暗い空から大粒の雨が降りだした。

「さすがに……疲れたな…」

土砂降りの中、傷ついた体を引きずるのが面倒になり、シバ・ガーランドは、木陰に背を預け、

太い幹にもたれたまま目を閉じた。

ものの一瞬だ。

まったく歯が立たなかった。

魔王サタンに受けた魔力の傷がひどく痛む。

(これほどの……差があろうとは…)

やはり、自分の力をもってしても、あの魔物を倒すのは無理なのだ。

ついさっき浮遊要塞を出てきたばかりで、サタンの表情までが、はっきり浮かぶ。

高い玉座におさまり、けだる気に頬杖をつきながら、美しい魔王は酷薄な瞳で薄く笑っていた。

「シバ・ガーランド……。僕に呼び出された理由はわかっているよね?」

玉座の前に片膝をつき、ただ黙っているシバに、サタンは残酷な瞳を光らせて、上品に微笑ん

だ。

「ね、いつまでかかっているの?僕の魂を入れておく悪魔の卵を、早くソードから取り返してき

てって言ったでしょ?」

そう言われるのは、わかっている。

わかっていながら、シバは見えすいた言葉を返した。

「御命令の通りに運んでおります。ただ、ソードは予想以上に手強く、私が送り込んだ刺客を

次々と倒し……」

「嫌だなぁ。シバ・ガーランド……。冗談はやめてよ。あなたほどの悪魔が、あんなふざけた刺

客を送って……それで、僕の目をごまかせるとでも思っているの?」

「お言葉ですが……」

「ね?やっぱり、やる気が出ないんだよね?だって、あなたとソードはとっても仲良しなんだも

の」

魔王が、にっこり微笑んだ。

強大で無気味な魔力を感じる。とっさに、シバは顔を上げた。含みのある笑いが、頭上からじっ

と見下ろしている。

「じゃあね……」

と、サタンが言った。

「もっと、あなたのやる気が出るようにしてあげる」

笑顔に、凄みが重なった。

美しい少年の右手が、高く上がる。瞬間、シバは立ち上がり、己のすべての魔力で防御した。

眼前で、黒い火花が散っている。爆風とともに圧倒的な魔力が迫り、圧縮魔力をまとった腕すら

焼ける。魔界最強の力が、シバの魔法防御を易々と突き抜け、全身を直撃した。

「………!!」

はるか後方の壁に叩き付けられ、衝撃に目がくらむ。

硬く冷たいそこから立ち上がる間もなく、いきなり重い力が降ってくる。その瞬間、背から胸に

突き抜ける、鋭い痛みを感じた。

魔王は、座ったまま特に動きもせずに、冷たく笑っている。

「これであなたの命は、あと2ヶ月と少し。でも安心して。もし、あなたが無事任務を遂行でき

たら、呪いは解いてあげるから」

突き抜けた痛みが、死の刻印だと、すぐにわかった。

目の前で、滝のような雨が降っている。

(情けないものだな……)

思い出して、シバは苦笑した。これでは、まるで、赤子同然のあしらわれようだ。あまりにも、

バカバカしいほど呆気なくって、我ながら笑ってしまう。悔しいと、思う気力すら欠けてしまい

そうだ。

(今の私とソードの開きと、どちらが大きいだろう…?)

そう感じると、余計に気になった。

(ソードは……今頃、どうしているのか……)

人間界に堕ちたと聞いてすぐ、使い魔を送った。生死を調べて、その後の行動を見守った。肉体

を無くしたソードは、悪魔の卵を探しだし……危惧した通りに事が進み、そしてとうとう魔王サ

タンがやってくる。

だが、自分にさえ勝てないソードが、この先、サタンを相手に出来るとは、とても思えない。

「……ソード……」

その名を呼んだ唇の端から、わずかに血が流れている。木の幹によりかかったまま、幹を滑るよ

うに地面へ腰を落として、シバは真っ暗な空を見上げた。びしょ濡れの身体が、少し寒い。

「せめて……もう少し……時間があれば……」

こんなに急に、別れてしまうことになろうとは、思わなかった。わかっていれば、もっとソード

を無理にでも上へ導いておいたのに………。

「あの天使と一緒に、生死の境で、人間界に堕ちるとは……」

いったい、どんな運命の巡り合わせかと思ってしまう。

ここ最近、イオスという高位の天使と決闘し続けていたのは知っていた。

少なくとも、それが悪い事だとは思っていなかった。

むしろ、自分がソードに、そうけしかけていたきらいもある。

ソードの成長の為には……もう少し私よりも近い…同年代の、同等の、友のような敵が要る…

…。

ちょっと前からそう思い始めていたシバは、どちらかというと、イオスの出現には寛大だった。

なにしろ悪魔にはロクな者がいない。ソードが力をぶつけあい切磋琢磨しあうには、どうせな

ら、いっそ天使で、気概のある者がよい。そんなふうに考えていた。

でも…。

今はまだ、何の準備も整わないというのに。こんなことになるなんて……。

(しかも、あいつが…悪魔の卵を持つとはな……)

いずれは、そんなことも考えないわけではなかった。けれど、

(……早すぎる……)

せめて、もう数年でも余裕があれば……。

もう少し、時間があれば……。

どうして、いきなりこんな事になってしまったのかと、それが悔やまれた。

(こんなことなら……上級天使との決闘など、無理にでも止めるのだった…)

仕方のないグチのようなものだとわかっていても、つい、そんなふうにも考えてしまう。

雨音が、さらに強くなっている。起こそうとした身体が、動かない。

(まったく……我ながら呆れる……)

シバは、もう一度、自嘲ぎみに苦笑した。

すべては誤算だらけだ。

サタンとの戦いも。ソードの行方も。そして自分が、これほどまでにソードに惹かれたことも

…。

(ソウル・ガーディアンを出たばかりの頃は…考えてもみなかった事だがな……)

なんだか、あの要塞戦艦が懐かしい。

打倒サタンを誓った仲間は、残してきた弟は、元気だろうかと思い出した。あれも、おもえば辛

くて、優しい想い出だ。

そうしているうちに、視界が塞がれ、感覚が消える。冷えた体からは、雨の音さえしだいに遠の

いてゆく。

そして、何も聞こえなくなった。










急に、紙を繰る乾いた音が耳についた。

(………?)

暖かい部屋だ。目を開くと、柔らかい光が燭台の上でちろちろ燃えている。灯火の横で、見知っ

た相手が椅子にかけている。淡いパープルの髪を背に流した彼は、組んだヒザの上に本を乗せ、

1ページずつ生真面目にめくっている。

高い天井。シンプルで、よく整頓された部屋だ。

ふと気配に気付いて、彼は、ベッドに横たわったシバへと視線を移した。

「おや。気がついたのか?」

「…………ここは?」

「私の城の………私の部屋だ」

「おまえが、私を……?」

「倒れているのを見つけた時は、死んでいるのかと思ったよ」

バジル・ホーネットが、いつもと変わらぬ平静な調子で答えている。シバは苦笑して、それまで

横になっていたベッドから自分で起き上がった。

「なるほど?それで、わざわざ死体を運んでくれたのか」

「死体だったら、その場に埋めてきたさ。…………まだ横になっていたほうがいいと思うがね。

たぶん、自分で思っている以上に深手だよ」

フン…と笑って、シバは肩をすくめた。

「大丈夫だ。どうせ致命傷じゃない。向こうにも都合があるだろうからな。まだもう少し……私

を生かしておく気なのさ」

「………いったい誰にやられた?」

「サタン」

さすがに、一瞬バジルの顔色が変わっている。逆にシバは冷静なまま微笑した。

「わかったら、これ以上聞くな。おまえを巻き込む気はない」

バジルはしばらく黙っていた。それから、まるで諦めたように目を閉じて、ふぅ、と大きく息を

ついた。

「………そうではないかと思っていたよ」

「バジル?」

「胸に死の刻印がついている。あなたにこんな高度な呪いをかけられるのはサタン様しかいな

い」

シバの瞳に、わずかだが、怪訝な色が走った。

「だったら何故私を連れてきた?おまえにサタンは裏切れまい」

「裏切る気はないが……倒れているあなたを放っておくほど人でなしでもないのだよ」

「………」

「何があったのだ」

「監視が……ついている。……おまえにも…」

「心配するな。あなたを連れてきた時に、城の周りに強力な結界を張った。サタン様でもなけれ

ば入ってこれんさ」

「そうか……」

ほっと吐息をついて、シバは穏やかに笑った。

「なに、サタンに催促されただけだ。私の仕事が遅いのでな」

「ソードのことか……」

代わりにバジルが溜め息をついている。

「いつかこうなるだろうと思っていた。あなたにソードの抹殺指令が下りた時から」

「仕方ない。私も一応、中央の砦を預かる指揮官で、魔軍の責任者の一人だ。任務の失敗には償

いをしなければならない」

「そうじゃない。本来なら、悪魔の卵とサタン様の魂の探索は、我々四元将の仕事だ。サタン様

は……相手がソードだったから、あなたを責任者に当てたのだ。あなたが殺せないことは百も承

知で。あなたを……ソードを魔界におびきよせるためのオトリに使う気なのだ」

「………わかっている」

わかっているよ。と、シバは敵意のない顔で、小さく笑った。

納得のいかない瞳で、バジルは読みかけの本をヒザの上でパタンと閉じると、珍しく声を大きく

した。

「何を言っているのだ?シバ。本当は……あなたがソードを倒して…サタン様にあれをお返しす

れば済むことだ。簡単なことだろう?」

「ソードの性格だ。……絶対に渡さないだろう」

「なら殺して奪うまでだ」

「それは出来ない」

「そのために自分が死んでもいいのか?」

「………そうだな。かまわないのだろうな……」

シバの、瞳も声も、穏やかだ。それを責めるように、バジルは言った。

「ずいぶんと、腑抜けたものだ」

「そうかな?」

「あなたが魔軍に入ってサタン様に忠誠を誓い、ここまでやってきたのには……何か他に目的が

あるからだと思っていたが……?」

シバは、黙った。

バジルは、サタンに刃向かう反逆者たちのことも、シバがその仲間であることも、そのために、

わざと魔軍に志願したことも、詳しくは知らない。知らないハズだ。でも本当は、知っているの

に黙っているのかもしれない。彼は、自分がサタンを絶対に裏切れないことを知っている。知っ

ているからこそ、シバの、時にサタンを平然と無視する奔放な生き方が、好きなのだった。

「己の目的を放擲して……いくら可愛がっていたとはいえ……下級悪魔一人のために、あなたが

死んでもかまわないというのなら……私はあなたを軽蔑するよ」

まるで説得でもするように、バジルは力を込めて言っている。シバは軽く受け流して苦笑した。

「そうだな。……でも、ソードを助けるのは……その目的のためでもあり、私が生きる為かもし

れないぞ?」

「…………」

今度は、バジルが黙った。

それからヒザの上の本を、謎かけのような返事と一緒に、隣のチェストにポンとのせると、腕を

組み、改めてシバを見つめた。

「私が…あの子に話してやろうか?あなたの命がかかっていると知れば…あの子なら…たぶん悪

魔の卵を渡すだろう?」

「かもしれない」

そう答えてから、シバは、「でも、どうかな…?」と首をかしげた。

「ソードには…もう守るべき新しい仲間が出来たから……。私はもう……アイツには必要ないの

かもしれん」

優しい瞳だ。でも、悲しんでいるような瞳だ。

それでも、すべてを受け入れて納得している瞳だった。

「シバ……いいのか?それで?」

「あの天使は…ソードのためには、悪くない」

「あなたは、それでもいいのか?」

「周りの人間たちも、なかなか気骨があってよいと思う。ソードは魔界では異端だったが……人

間界に落ちたことで良い友に恵まれた」

「あなたは、それでいいのか!?」

「私は……」

と言って、シバは笑った。

「好きな相手を独占したいと思うほど、若くない。ソードが大切だったから……とても大切だっ

たから……一歩離れた所から、自分の宝物みたいに成長を見守ってきた。それで充分楽しかった

よ」

「本当に…それで……?」

念を押したバジルの言葉に、シバはさすがに苦笑した。

「そうだな。もっと若かったら……そして、もっと時間があったなら……嫉妬のひとつもしたか

もしれん。どんなに愛した相手でも、その心を完全に支配して、完全に独占することなど出来は

しない。そんな理屈は、わかっているのに……それでも悔しいと地団駄ふんで嫉妬したかもしれ

ないよ」

でも……。と瞳が翳った。

「もう…私には…時間がないのだ。嫉妬をしている時間さえ……。せめて、あとは……私にでき

ることを、最後にしてやらねば……。ソードを殺させるようなマネだけは、私がさせない。絶対

に、私がソードを守ってみせる。命に代えても……」

顔を上げ、まっすぐに見つめて、シバは、ほんのわずかに笑ってみせた。

「これで……」

「……ん?」

「私のほうが、先に死ぬな。バジル……?」

はっとした瞳がわずかに見開いている。そして、その唇が、呟いた。

「………あなたは……本当に…バカだ……」

本当に…バカな悪魔だよ、と切れるように唇を噛んだ。

迷いのない強い光で、シバは微笑んでいる。

「でもまだ…死ぬわけにはいかないさ。仕事が残っているからな。いいのだよ。これは……私の

選んだ戦いだ」

「そういうあなたが、少し羨ましくもある」

そう言って、タメ息と一緒にバジルも笑った。仕方がないと、頷いた顔で、彼は言った。

「ではひとつ、いいことを教えよう。悪魔の卵は、成長する。もし……ソードがそれに耐えられ

たら……そして、あれに、あなたの魂を封じたら……あなたたち二人の、魂の力を合わせれば…

…復活したサタン様とも互角に戦えるかもしれない……」

「そう…なるかもしれないぞ?」

「それも……面白いな。ぜひ、健闘を祈るよ」

どこか遠いものを見るような眼で、バジルは言った。それを見つめて、今度は、シバが真面目に

言った。

「他人事だと思っているかもしれないが……おまえも、ソードと戦うことになるかもしれない

ぞ?そうしたら……おまえの答えも出るかもしれない。あいつには、そういう力がある…」

「あの子には……か」

思い出すように呟いて、バジルはククッと笑った。

「かもしれないな。その時を、楽しみにしておくよ。あなたも、いくらソードのためとはいえ…

…あまり死に急ぐマネだけは、しないことだ」

「ああ。肝に命じておこう…」

シバはそっと微笑んだ。

ここで死んだら。

サタンを倒さず、ソードのために死んだら。ソウル・ガーディアンの仲間が、怒るかもしれな

い。信じて待っている弟も、恨むかもしれない。それでも、自分の選択が間違っているとは思わ

ない。

ソードには、自分を越える力があるのだ。

でも……。

ふと、バジルが思い付いたように言った。

「ソードが…もし」

「……?」

「もし、何の力もない、ただの下級悪魔だったら、あなたは……見捨てたのか?もっと…あなた

の目的を果たせる他の誰かを、探したのか?」

シバの瞳が、微笑んでいる。どんな相手にも見せない、優しい光で、彼は笑った。

「………いや。あれは私の……たった一人の親友だから……。何があっても、私が守るよ…。た

とえ、何の役にも立たなくとも…」

「ほう?妬けるね」

バジルは苦笑した。

「でも、私はそういうあなたが好きなんだ。ソードのことも…戦えばもっと好きになるかもしれ

ない。あなたの事よりも、もっと。だったらどうする?」

「かまわんさ。おまえだって、きっと惹かれる。あれには、そういう力がある」

フフ…とシバが笑った。

バジルも笑った。透明な雫みたいな瞳をして。そしてまた、遠くを見る眼で呟いた。

「私はね、輝いている命を見るのが、好きなんだ」

「誰だって、その気があれば、輝くさ」

「そうかな」

「そうだろ?命とは、もともとそういうものだ」

たとえ、小さなかけらでも。

輝こうとする命は、美しい。

そう言って、シバは微笑んだ。

黙って、バジルも、少しだけ笑った。

燭台の炎が、大きく明るく光っている。バジルは立ち上がって、シバの背中へ手をかけた。

「今のうちに……もう少し眠ったほうがいい。また、忙しくなるのだろう?」

言いながら、肩を抱いて、静かに濃い金茶色の髪を枕に落とす。簡単な呪文を唱えて三つ編みを

ほどくと、シバの長い髪が広がって、シーツの上に美しい光が波打った。

「あなたは…何でも一人で抱え込むから。………一人で働きすぎなんだよ」

「そうかな?」

「そうだろう?」

薄いブランケットをひっぱりあげ、肩までかけてやりながら、バジルは悪戯っぽい口振りで片目

をつぶった。

「だから、休めるうちに休んだほうがいい。今夜は、誰も邪魔が入らぬように、私が番をしてい

てあげよう」

「光栄だな。四元将のリーダーが、付き添いとは……」

クスリと笑って、シバは切れ長な、深い色の瞳を閉じた。

外では、真っ暗な空に激しい嵐が吹き荒れて、雨音が、ひっきりなしに窓に打ちつけている。そ

れでも、ここは明るく暖かい。

「ソードを……」

瞳を閉じたまま、眠りに落ちる一瞬前に、シバは小さく呟いた。

「…私が死んだら……ソードを頼む……。バジル…おまえが、私の代わりに、あいつを鍛えて

やってくれないか……。あいつが…悪魔の卵を使えるように……。サタンと互角に戦えるように

……」

「私にそんなことを頼むのは…少々酷とは思わんか?」

「思うなら、言ってない…」

「あなたという悪魔は……。仕方ない……では有り難く、そうさせていただくよ」

フフッとバジルが笑った。

それを聞くと、形のよい唇に穏やかな微笑を浮かべ、シバは、すうっと眠りについた。










「あれ?」

夜。ベッドの上にあぐらをかき、ちょこんと座っていたソードが、窓から空を見上げて声を出し

た。

「どうしたんです?ソード?」

ちょうど部屋の前を通りかかったイオスが、開いているドアから覗き込んでいる。

「おお〜」

返事をしたまま、ソードは、まだ暗い星空を眺めている。それから彼は、

「いや、何でもねぇよ」

と言ったまま、しばらくの間、瞬く光を眺めていた。

(今……シバの声が…聞こえた気がしたんだけどな……。やっぱ、気のせいか……)

魔界に帰れたら……。

ふと、ソードは思った。

シバに、一番先に会いに行こう。そして、色んな話をしてやろう。そして……。

「へッ」

ちょっと頬を赤らめて、ソードは勢いよくベッドにもぐった。

アレもしよう。コレもしよう。

もちろん手合わせもしてもらおう。いつもコテンパンにのされっぱなしだが、いつか、一発入れ

てやる。そしたら、ポーカーフェイスの冷たい顔も、少しはオレを認めて笑うかもしれない。

シバと戦うのは、楽しいと、思う。でも、ただ一緒にいるだけでも、嬉しいと思う。

それがどんな状況でも。

最期まで味方だと信じているから、いいと思う。

たとえ……敵になったとしても……。

今夜は、優しいシバの夢を見るかもしれない。

そう思いながら、ソードもまた、独り穏やかな眠りについた。

【完】