「なぁカイぃ!!今日、ウチ来いよ!そんでしばらく泊まってけよ!」



いつも落ち合う公園で…
急にタカオが言い出した。

そこは、よくあるハナシだ。べつに、一向、珍しくない。
だが、わざわざ公園の入口でオレを待ちぶせ…飛びつくみたいにオレを捕まえて…妙な感じでソワソワしてる…

目が…泳いでるぞオマエ……ん?…泳いでるってよりは…浮かれて飛び跳ねてるに近い…
いつも以上に熱情と気合の入った瞳が……やたら興奮しまくってる…

…なに…企んでやがる……

と一瞬、思った。
策士ってガラじゃないんだが…コイツがこんな顔するときは、たいていロクなことを考えてない。むしろ天然で、謀ったように、とんでもないことをやらかす……よけいタチが悪い。オレが警戒するのは当然だった。


「……なぜだ」
「親父がさ、西アジアから国際宅配便で送ってきたんだよ」
「何を」
「スイレンだよスイレン〜!!」
「…だから、それとオレの宿泊がどう関連するんだ」

コイツの話は、いつも順序が逆サマだ。
説明抜きで、言いたいことから始めるせいだ。
もっとも当人はいたって矛盾なく、オレの肩に絡まって…ただでさえ高いテンションが、今日はさらに上がりつづけてる。

「それがさぁ…5000年前の遺跡で発掘された幻の古代睡蓮らしーんだよ。プレミア級に珍しいモンらしーから!一緒に見ようと思って!何か面白そうじゃねえか?」

……おまえが考古学に、興味あるとは知らなかった。兄貴のほうじゃあるまいし…
というか、そんなもの…私物化して自宅に送っていいものなのか?
…コイツの親父も考古学者というよりは、ただの冒険野郎みたいで…日頃何をやってるのかよくわからない。

ともかく家まで引きずられて…強引に見物することになった。



「なんだ?コレは?」
「え?コレだぜコレ〜父ちゃんが送ってきたんだよ」

タカオが、いそいそ奥から運んできた小箱は…ただのダンボールだが…そこから両手ですくいだしたのは…まるで…黒ゴマ?

「こいつがスイレンのタネらしいぜ?」

「幻の睡蓮とは…干物化した花じゃないのか?もしくは壁画とか、印章とか」
「え?言わなかったっけ?見つかったのは地下に、ぐーぜん真空パック?みたくなって保存されてた大量のタネなんだよ」

…それは………今聞いた…が…

「どうするんだ、そんなもの。だいたい5千年前だろ?…存命中なのか?そのタネは…」
「ん〜それが…父ちゃんの手紙によると奇跡的に良好保存されてた休眠中のタネらしーんだよ。ま、よくわかんねえけど、そりゃ生きてるってことだろー?」

まぁ……ありえなくはないが。…5千年というのは…どうなんだろうな。

「ま、ムズカシイことはわかんねえけど。なんかウチに生えてる奴と一緒だろ?テキトーに池に蒔いときゃそのうち咲くんじゃねえのか」

さすがコイツだ。常人に無い即決定。しかし…

「……おい、その手紙を見せてみろ」

コレが本当なら、歴史的な大実験だ。そんなものを一家庭の池でシロートのオレたちが勝手にやっていいはずないだろうが!…何かのマチガイじゃないのか?でなければ極秘の理由とか…トクベツな生育方法くらいは書いてあるはずだ。

だが…そう言ったら木ノ宮が、異様に慌てた。

「ダメダメ、そりゃちょっとダメ」
「なぜだ」
「えっとそのぅ…恥ずかしいから!」

なにが…親父の手紙くらいで……オレにも見せられん過激な内容なのか……それとも、もしかして、おまえ……そういうお年頃?…とか…?

なんだか、いちいちアヤシイ話だが……。木ノ宮家の内部事情は、オレには関係ないことだ。
ともかく、5000年前の睡蓮がホンモノならば…どんな花が咲くのか、少しくらいは期待してやっても悪くはない。成功したら世界初だろうからな。ギネス的な話には、多少興味がある。

と、そのときオレが言ったのを真に受けて、タカオは異常に喜んだ。

……喜びすぎだ。「やったぜ〜!」と逃げる間もなく抱きついてきて、オレの右頬と左頬に、交互にキスをして、…

なんだこれは…………。
おいっやめろ!と張り倒すべきだったが、あんまりびっくりして、睡蓮より先に、オレのほうが石化してしまった。

……思えば、これがすべてのマチガイだ。………たぶん……



黒ゴマ集団はタカオと一緒に池の一番浅いくぼみにバラ蒔いた。世界的な考古学遺産に、こんな暴挙…いいのか?…とは思ったが………それもオレには関係ない…。
「よっしゃぁ〜コレで準備完了〜」
木ノ宮は、ナゼか…おい大丈夫か?と聞きたくなるほど、すっかり浮かれている。

だが…

オレがずっとココで待つなんて面倒だ。咲いたところで迎えに来い。そしたら10分くらいは見に来てやる。

そう言って帰ろうとしたときだった。


…何だか急に意識が朦朧としてきて…庭でぶっ倒れた……

………ような気がする。


…なのか?…………わからない…一瞬、時間と空間が渦巻きみたいに曲がった気がする…

……

わかってるのは、直後に、木ノ宮の腕に絡め取られていたことと…


…時空が変わるような感覚………カラダが…動かない…

アタマの芯が…熱に疼いたように…ぼうっとしている。
フワフワ浮いたみたいにキモチが開放されてるのに…すごくボンヤリしているし…体がフラフラしすぎて動けない。まるで筋弛緩剤とか催眠術の世界だ。

しかし、もっとわからないのは木ノ宮だった。

そのオレを、両手で抱え上げ、庭の草むらに寝かせて…オレの両腕を片手でひとまとめに頭上で押さえつけ…サカサマからオレの唇を咥えてきて…

「…んっ…ぐ…?」

キスか!?…これは…しかも…こんな日中の庭で…夏休みの午後にイキナリ……誰かに見られたらどうす…じゃなくてだ!

「…ぁ……ぅう…っ…」

舌が…オレの唇の裏を丁寧に掻き回し…吸い上げ…舌の根元まで…絡んできて…
きっ…きさま…オレの自由を奪ったうえに…こんな……というかオレのカラダの上に乗りあがり…ドコに手を…!!

「ン…ぁッ…!?」

コイツ…ほんとに…キノミヤか?…
変だ…いつの間に…ドコだココは、いや庭だ?…違うのか?だが草とごつごつした池の石が、たしかに頬にぶつかる…

…そこで…いつのまにか…上着をはだけられ…シャツを鎖骨のあたりまでめくられ…乳首を弄くりまわされて……下…下は…?…もう途中まで下着ごとずり落ちて…ヒザのあたりまで下ろされ…足を持ち上げられ…カラダを折り曲げられて…

あ…青姦!?…おまえ、イキナリこんなところで、しかも最高にグレードの高い、青姦!??

「ぁあッ…あ…ヒァッ…っ」


あ…ありえない…

男の硬いアレが、オレの中に…アッサリぐいぐい挿入ってくる…
ほとんど一突きだ…

「…ふ……ああぁッ」

すぐに律動が始まって…まるで慣れきった行為みたいに…ごくアタリマエに……

「は…あぁ…ぅ…」

う…ウソだろ…
ヤツの顔が見えない…
おまえ、キノミヤ?!…ほんとにキノミヤか?!

…いや………そうだ…多分、タカオだ…
なんだか…ぜんぜん違うのに…そう…感じる…
キサマほとんどコレは薬物を使用した強姦だ!やめろ!と言おうと思ったのに…口が動かない……喘ぎ声だけ漏れてくる…

「あっ、アッ、…んっ、く…」

どうしよう…何か…ものすごく…気持ちいい…
自分でシゴくなんてモンダイにならない…
どうしてくれるんだ…こんな絶頂感が…クセになったら…

「アアッ…アアッ…木ノ宮ぁ…」

グチュっ、グチュっ、と動くたびに音が漏れ…
つながった奥から…脳天に突き抜けるほど鋭い悦楽が…痺れたみたいに…全身を駆け抜けて…
背中が土に擦れても…ぜんぜん気にならない…

ああ……そうだ、コレは、たぶん、夢だ…

だってすべてがオカシイし…こんなに明るいのに誰も来ないし…草の匂いが青々して…空も青くて…あんまり…青すぎるし…ジリジリ熱すぎて…なのに庭の石が冷たい枕みたいになっていて…初めてなのに…慣らしもしないで…いきなり突っ込まれて…痛くもない…ただ…ジレッタイほど…キモチイイ…


こんな夢見て悦がってるなんて…

…オレは…やっぱり木ノ宮が…こんなカンジでスキだったのか…?



と思ったとたん、





視界が暗転した…






おかしな夢だ。二段構えとは…
ほとんど要らん凝り方だ…

しかも、今度は夜で、さっきまでの熱病に浮かされた変な感じがなくなって…すっきりしてる。
意識もハッキリしてるし…夜風も大きな河べりのようで気持ちいい…

なのに…ありえん…


ずるずる引きずるほどスソの長い…透けるような民族衣装を着込んだオレが、似たような格好したタカオと、石のバルコニーに立っている。
宮殿だ。
しかも建築が変だ。数千年前の遺跡を復元したようなレンガ造りなのに…見下ろすと…広がってるのは…空中庭園…。黒い海の上に、非常識なカンジで、宮殿ごと軽く100メートルは浮かんでる。

なんだ?これは?…ファンタジー設定の夢など、オレは自慢じゃないが一度も見たことがない。

しかし驚くことは、もっとある。
隣のタカオが、
「なぁカイ〜そろそろ産まれんじゃねえのか〜?」
オレの腹に手をのせた。
乗った…??
やたらデカイぞ…それに重い……なんかこぅ…ハラに4キロくらいの石でもつめた大きな袋を巻いてるようだ…
なんで、こんなにオレのハラが膨らんでるんだ??

っていうか…木ノ宮…何かいる!!…

オレのハラの中に、何かいるぞ…!!コレは…


今、ぴょこん、と、カエルの足的なモノが…オレの中から、木ノ宮の手を押し上げた…


「わはっ動いたー!!…やぁっぱ、男の子だよなァ…すげー元気だもん」

オイ…何だ…その…どっかで聞いたような陳腐なセリフは…というか…

「…お…男の子だと…?!…なんで、そんなイキモノが…オレのハラに入ってるんだ…!?」

すると、タカオが、もっとビックリした顔で、オレを覗き込んだ。

「え?だって中にいるの、オレとおまえの子供だろ?何言ってんだよカイ〜先月、オレたち聖婚の儀式やったじゃねえか。ちゃんとみんなの前で、聖塔に入って聖獣にも誓ったろ?」


…そうなのか…じゃあ、これからオレは木ノ宮の子供を産むのか…………て…ちょっと待て。


オレが!??なぜだ!??しかもキサマ、月が合わな…


「だはは〜だぁってオレたちデキちゃった婚だったからさ〜。ま、でも式が間に合ってよかったよな!ちょっとおっきくなりすぎちまったけど。ホントは目立たないうちにって、じっちゃんとか気ィ使ってたんだけどさ〜。おまえの都合がつかなくて…おまえ、ギリギリまで働いてたし。でもオレは嬉しいぜ?家族みんなで式上げられたーて感じでさ!」

タカオは、いつも以上に、やたらデレデレした後、……爽やかに笑った。

爽やかすぎだ…

瞳は少年のくせに、せ…青年?!……大きくなってる……19…?…20…?…くらい…か?…

「楽しみだな〜オレ。きっと双子だろ?すげーでけーもんな、このおなか!ん〜もう会話できそーな気がするぜ。おーい聞いてるか〜。男だったら、おまえらゴウとマコトだからな〜」

タカオがオレの腹に耳をあてて、しゃべってる。…すでに名前も決めてあるらしい…

そうか…双子か…どっちに似てるんだろうな……希望としては、オレとおまえ似が各一名ずつなら理想だな…


………て?

…じゃないだろうが!木ノ宮!!きさま…いつの間に……そうか!アレだ!…あの青姦で…デキ……






そこで目覚めて、飛び起きた。


隣で、木ノ宮が自分の片腕をマクラに、くーくー寝ている。フトンだ。畳だ。ココは…木ノ宮の家の中だった。

フトンは一組で…オレのだけだ。タカオは…畳の上で、服のまま眠ってる…。オレを看ながら…そのまま眠ってしまった態だ。やっぱり、あれからオレは、寝てたのか?まだ夜が明けたばかりだ…小鳥に混じって時折、寝トボケたセミの短い声が聞こえる。………。

念のため、腹に手をあててみた…フツーだ。当然だ。オレの腹には、腹筋はあるが、子宮なんて、ついてない。


それにしても…途中から、すごい勢いでリアルだった……。

現実がぼうっとしてた分、こっちの世界より、はるかに現実感が、あったんだ。



しかし…どこからが夢で…どこまでが現実だったんだろう…?

おそるおそる、カラダのあちこちを確認してみた。
…べつに…ナニかされたような痕もない……




やはり…アレも…夢か…そうだ…夢に決まってる…



木ノ宮は、服を着たまま、フツーに寝てる…いつもの顔だ…


オレだけ…少し熱っぽい…

きっとカゼでもひいたに違いない…
夏カゼなんて…バカしかひかないはずなのに…


どうしたっていうんだ……もしかして…呪い…?…あの変なスイレンの…古代遺跡の呪いとかじゃないのか?!


しかし、だったら、オレだけかかるのが解せない。
おかしい…どっちが現実なんだ…
…なに?…こっちが現実じゃないのか?…コレが…ユメ…か…?…

…ああ…何だか…また…熱っぽくて…くらくらする…



意識が…遠くなる…



羊水みたいな柔らかい何かが…オレを巻き取りにやってくる…



「カイ?大丈夫だって。なんも心配ねえよ」

寝ていたタカオが起き上がって…オレを抱いた…
これは…どっちのタカオだろう…?

こっちか?…それとも…


「…っ…」


唇が、また重なる…
また…快楽が…せり上がる…




「…ぁ…」




同時に、池の底に沈んだ、黒い小さなタネたちが…


ぴくん、と胎動するのを…感じた…





◇to be continued◇