タカオは、庭に面した縁側に腰掛けて、
じっと…カイを、眺めていた。

白い指先から、魔法のように操られる、ドランザー。
ときおり不可思議に赤く光る、アメジストみたいな、きつい瞳。
長いまつげ。
ダークグレイの柔らかい前髪に、透き通るような白い頬。

綺麗だ、と思った。

庭の置石に、静止したかのように、留まっているドランザーは、
そう操るカイと同じに、
深い湖の底みたいで…とても、静かだ。

でも、その奥に、ひどく激しいものが潜んでるのを、タカオはちゃんと知っている。
白い腕と体には、数えきれない傷が刻まれてるのも、知っている。

ぱっと、炎が、舞い上がった。

カイを包んで、魔物みたいに燃え上がる。
焼き殺すためではなく従っている、この炎も…
きっとカイのことが好きなんだろうと、タカオは、思った。

炎を、まるで手慣れた獣のように、美しく操る。綺麗なラインを形づくる体に添って、飾るように動いてゆく。



ふと、カイが、タカオに気づいた。

「木ノ宮…。なにを…見ている?」
どう答えようか、一瞬、迷って。
それから、タカオは本当のことを言って、笑った。
「おまえを、だろ」
「物好きなヤツだ」
少し、からかってみたくなる。
「嬉しい?」
「……たわごとを」
不機嫌な声が、返ってくる。

燃える揺らめきが重なり、カイ自身が、炎そのものにも見えた。


できれば、この美しい炎の鳥を、ずっとずっと見ていたい。自分一人のものにしてしまいたい。


「オレじゃダメかな」
タカオが、うかがうように、また言った。
「ヤケドしちまう?」

紫の瞳が、じっと視ている。

それから、艶を含んだ、薄い小さな形のよい唇が、フ、と笑った。

「………そんなタマか?」
「わかんねぇけど」
「きさまは…そのていどの男じゃないだろう?」
「自信は、あるぜ?」
「なら、聞くな。それに…」

突然、全身を、カイの放った炎で包まれた。
タカオは…それを熱いと感じるより速く、座っていた濡れ縁を飛び下り、ドラグーンを出している。

透明な光と風を操って、取り巻いた炎を、
もっともっと美しく昇華させる。

風と、光と、炎が、混じり合い、絡みあい…

すべてが、巨大な、金色の輝きになる。

そのまま、高く、高く、天空までも、その先までも、昇ってゆく。

「みろ、木ノ宮…」
光輝を一瞬だけ振り仰いだカイが、近付いてきて、微笑んだ。
そうして。
聞きとれないほど、小さく、細く、まるで、そら耳みたいに…
でも唇が、たしかに、そう動いた。



もう、とっくに…オレは…おまえ一人のものだ…。



タカオは、まるで、すべてのものに聞かせるように。
大きな声で、言い返した。



「ああ、そうだな。おまえは…オレんだぜ?カイ」



誰にも、やらない。



「覚悟しとけよ。オレから…逃げられると思うな」

カイが、ほんのわずか頬を染めて、うつむく。


タカオは、たまらなくなって、
急いで駆け寄って、抱き締めた。

しっとりと質感のある肌、なめらかで形のよい筋肉に、小さな鼓動、淡い息遣いが、聞こえる。

美しい肌も、そこについた傷も、みんな、みんな、抱き締める。
灼けそうな炎の熱も、鋭い刀身みたいな冷たい力も、一つ残らず、抱き締める。


でも、

頬に触れた、ダークグレイの髪から、春風みたいな匂いがしたと思ったら、

熱い炎と、剣の抜き身みたいな冷気は隠れ、



静かで温かなカイだけが、腕に残った。


■END■