「なあカイぃ〜。今日さ、こういうの、やってみようぜ!!」

夕飯の後。
部屋にゴロゴロと、無駄に寝そべっていた木ノ宮が、急に、こっちを向いた。と思うと、
バサリ、と見開きで雑誌を広げて寄こす。

「………!?」

写真だ。……しかも、絡んでいる……。裸体が2つで1セット。しかも紙面いっぱいに…

「きさま、どこから、そういう…うろんな五流雑誌を、持ってくるんだ」
「いろいろヤってみてぇ盛りなんだよ!オレぁ〜!!な、いいだろ〜?」

甘い、鼻にかかった声を出して。コイツは…機嫌のいいネコみたいにゴロゴロねだっている。
フン。オレが、そんなテにのるものか。本物のネコは可愛いが…コイツは…どちらかというと…しつけの悪い犬だ。

「断る」
「そっか。でも……」
「?」
「オレも断るぜ?カイ」
「なに?」

木ノ宮が、ガキ顔のくせに…生意気にも、不敵な目許で笑った。

「いーかぁカイ?、おまえが断るのを、オレは断るからなっ!!」
「なにを言ってる、きさま…」

コイツの論理につきあってると、こっちのアタマがおかしくなるから。オレは適当にあしらって、作業の続きに没頭することにした。小さなガラステーブルの上で、ドランザーに新しいアタックリングを装備させてる真っ最中。オレは、忙しいんだ。きさまのタワゴトに相手になるほどヒマじゃ…

「な〜いいじゃねぇかよ〜カイぃ〜」
「うるさい。腰に抱きつくな。手元が狂う」
「じゃ、いいんだな!?」
「なんで、そうなる。嫌だといったら嫌だ。こんな……」

その瞬間、オレは…つい、その五流誌に目を落としてしまった。木ノ宮がやりたがってる、その構図とは……

「あれえ?赤くなってるぜ、おまえ…」
「きさま……」
「なに?」
「…こんな……こんな卑猥な…格好を…オレにしろと言うのか!?」

いつもまとわりついてくる大地は、最近、水原家に入り浸って帰ってこない。
それでなのか…。
木ノ宮が、バカなアプローチを毎晩、毎晩、性懲りもなく仕掛けてくるのは…。

「へっ、そう言うわりには…スキだらけだぜ!!カイ!!」
「なにっ…!?」

いきなり、格闘技を仕掛けてきた。
「チッ…」
「やったぜっオレの勝ち!!」
オレを畳に組み敷いて、勝ち誇ったように笑っている。
不意を突かれたとはいえ…コイツ…このオレを腕力で抑え込むつもりか…?

「甘いな、木ノ宮」
「そりゃあ、どうかな?」
「……く…」

抑えこまれた足と腕が…はずせない。
バカな…コイツ……いつから、こんな…強く…

「龍心剣の使い手をナメてもらっちゃ困るぜ」
「剣と格闘は関係ないだろう」
「へっ、オレだって鍛えてんだぜ?おまえのためなら、公園のイチョウ並木の、一本や二本、ブチ折れるくらいになっ」
「それは犯罪というんだっ…また意味のわからんことを…」

その時。突然。

がたん、と、目の前の戸が全開した。

「あ、じっちゃん…」
「おや、タカオ…珍しいな…カイくんと取っ組み合いとは…」

なんて…ところに…竹刀をかついだ胴着姿の木ノ宮の祖父が…
だが、これで……木ノ宮の愚行を止められる…
大地と木ノ宮の日常ケンカを、いつも竹刀でビシビシやめさせる、この爺さんなら…たぶん…

「じゃが…カイくんは、いつも、あまりに子供らしくないからのう。それくらいで結構じゃ」
「あ〜じっちゃんも、そう思う〜?」
「全身でぶつかりあうケンカも、また良きかな良きかな」
「じゃな〜じっちゃ〜ん」
「たまにはいいが、仲良くやるんじゃぞ」
「あー、仲良く、ヤってるヤってる〜」

…………この…木ノ宮ソックリの…脳天気ジジイが。
きさまの孫が、このオレに何してくれてるのか…きさま、知って……

いや待て。知られたら困るのは、オレだった…。



再び、戸がしまる。

「これで、二人っきりな」
「………」

しかしだ、木ノ宮。よく考えろ。
戸、といってもだ。
こんな…カギもついてない、純和風の家で……

「さ、やろーぜ、カイ」

……チッ……何考えてるんだ…コイツは…

「だから、やらないと言って……うあッ…」
「いーじゃん。カタイこと言うなよ〜」
「アッ、あ…あ…」

突然、下着に突っ込んできた木ノ宮の手に、直接にぎられ、激しく扱かれて、
腰がくだけてる。また…きさま…不意打ちで……
きさまの家の流派は、卑怯な手というものを禁じてないのか!?

……………。



「カイ〜どお?イイ?」
「……ん…ん…」
「あっ、そんな絞めんなよ〜おまえ〜オレも…イイっけどっ」
「……ん〜〜」

「あれっ?!もしかして、あの足音…また、じっちゃんか?あ〜もぉイイとこなのになァ」
「ンン…!?」

木ノ宮…おまえ…呑気なバカ声で……残念そうに言ってる場合なのか!?

さっきから…
何回も…
障子一枚はさんで、すぐ隣を、爺さんの足音が通り過ぎるたびに、心臓が跳ね上がる。
声を押し殺すのに、枕の端を必死に噛んでる…オレの努力は何なんだ。

きさまが良くても、オレは、ぜったいに嫌だ!!
今…その戸を開けられたら……

開けられ…たら…………



木ノ宮に四つん這いにさせられたオレが、

信じられない角度からムリヤリ突っ込まれて、よがってる…

とんでもない光景を目撃される!!

「ん、ん、ぐ、ん〜ッ…」
「ほら、カイ、もう声出してもいいぜ?道場のほうに行っちまったから、じっちゃんにゃ聞こえねえよ」

そう言われて出すのは癪にさわるが。
…このまま枕をくわえてるのは、もっと辛い。
涎でびっしょり濡れたそれを木ノ宮に取り上げられて、放したら、新鮮な空気が肺に飛び込んで……息…が……ッ…

「あっ、あ、あ、あッ、ひ、木ノ宮ぁ…」

あんまり気持ちよくって、喘いだら、体液みたい…に…涙が…

なんで…このオレが……毎晩毎晩、木ノ宮に泣かされて…啼かされてなきゃならないんだ…。


絶対…こんなの理不尽に決まってる…。
なのに…コイツの家に…強引、なしくずしに泊まらされて…いったい、何日経つんだろう……?

いや…何週間?


何ヶ月…?



……………。










「オレたち、結婚しました」
「なにっ!?」

珍しく学習机に向かい、不穏なセリフを棒読みした木ノ宮を、思わず振り返れば。
ヤツは、イスにそっくりかえって天井を見上げ、真剣な顔つきで、ブツブツ言っていた。

「って、転居届け出さなくともいいかなー。マックスたちに」
「誰と誰が、ケッコンなんぞしたんだ」
「なに言ってんだよカイ、オレとおまえに決まってんだろ」
「………」
「なぁ…籍とか入れんの、未成年でも大丈夫なんだっけ?保護者の同意とか要る?だったら、じっちゃんで、いいよな。おまえん家に断るのは大変そうだけど…ま、心配すんな。息子さんを下さいっ、てオレ、立派に言ってくるから。ってことは、そうか……木ノ宮カイ、か〜なんか良い響きだな〜」

すっかりウットリしながら、エッへッへ〜っとニヤけて喜んでるコイツを…
誰かどこかへ持ち去ってくれ。

「でさあ〜今夜のことなんだけど…」
「……断るっ」
「なんだよ、まだ何も言ってねえだろ!!」
「きさまの今夜は、ロクな話がない」
「なんだよ〜カイだって、楽しんでるくせに〜」
「楽しんでなどいない」
「そーかあ?だって、おまえ、すっげ〜昨日だって、可愛い口して、あんあん、ゆっちゃって…」
「黙れ…殺されたいのか、きさま…」

真っ赤になったオレに喜んで、また木ノ宮が手を叩く。

エンドレスな、バカバカしい日々。

明日も、明後日も…来年も…
こんな、おかしな生活が続くんだろうか?

そんなことを、
いちいち考えるのも、面倒臭いから…


どうせなら、一生続いてしまえ。

と、思ってる自分に気付いて、動悸と上ずった頬が…さらに熱くなってきた…。



■END■