星屑を砕いて深く…沈めたような…瞳の光が、瞬いている…

「なぁ?、カイ…?…」

揺れる大きな光が、
オレを凝視つめて…微笑ってる…

熱にまみれたタカオの息遣いが、オレの額にかかるほど、
すぐ上で
…それが、なぜか…まるで、生まれてしまった涙みたいに…

かすかに淋しく、潤んだ気がした…。


「カイ…オレさ、ずっと…おまえに…キラワレちまってるんじゃねえのかって…思ってた

「なに?」
「マジで時々…不安だったぜ」


木ノ宮は、たしかに、微笑んでいる。
声は、
夜のタメ息ほども…静かだ…

「だって、おまえってさァ…会ったときからオレにゃ、めっちゃキツかったし…。そのくせ初対面の他国の奴とか、マックスなんかにゃすげー優しかったりするから。今だからバラすけど…オレだって…その…おまえ…カナリ嫉妬したりもしたんだぜ?みっともねぇけど…そりゃその…イロイロと…」
「…木ノ宮…?」
「おまえを…開会式の廊下で問い詰めたときなんて、おまえの視線とか迫力とか…ぜんぜんハンパじゃなくって…オレより他の奴がいいなんて、思ってもみねぇこと言われるし…もぅ動転しちまって…ほんとに泣きてぇほど悔しかったし…。だけど…その後、よく…考えたら…
やっぱ、オレのこと……大っ嫌いになっちまったから…チーム移籍しちまったのかなぁ…とか…。オレのこと、ほんとに憎いから、倒そうとすんのかなぁ、とか…。前々から実は、すげーキラワレちまってたのに、オレが気づかなかっただけなのかもしんねぇ…とか…。それでも…オレは、いつまでだって、おまえを待つけど…
それでも、もう…いくら待っても、戻って来ちゃくれねぇのかもしんねえ…って…。そんなはず、ねえって…何度、思おうとしても…何だか、どうしようもなく不安だったり…。……おまえのこと、すごく信じてるのに…それでも…ワケわかんねえほど…落ち込んじまったり……情けねえけど…ほんとに…オレ………おまえがいねえ間…すごく…すごく…ツラかった…」

「……おまえ…」


「…ムズカシイよなぁ。…ほんと、よくわかんねぇよな…人間のキモチって…」


暗がりで、表情なんてほとんど見えないのに…なぜかハッキリ感じる。

タカオは、今、
とても不思議な表情で、微笑ってる…


突然また、何を…言い出すのかと…思った。

 

「な、カイ」
「ん?」
「足、開いて!」
「なに?」

唐突に、
今度は、悪戯っぽい声で笑いかけてきた。

って、おまえ…
開くもなにも…さっきからオレの内に、オマエ、挿入りっぱなしだろうが…

「あッ…ん…あぁ…うっ…」

また…中の硬いモノに……深く貫かれて…躯が、跳ね上がってる…
「…っ…んぅっ…ぁ…」
…何度も何度も…浅く掻き回されて…タカオと一緒に…乱れた水音までが…グチュグチュ滴り落ちてくる…
「アッ……アァッ…ア…」
両足の間に…溜まりきれない体液が…互いのが入り混じったまま…溢れ流れ…

局部を直接、犯されて…とっくに全身を…快楽に…飲み込まれてる…

「あっ、…は、…はぁッ…」

カラダも…アタマも…ココロも…揉みくちゃにされて……もう滅茶苦茶なのに…
このうえ、なにを…しろと…いうんだ?…


「じゃなくてさ…もっと、よくわかるようにだぜ?」

なにを…言って…るんだ?おまえ…

「カイ、自分でしてみてくれよ?」
「自分で?…何…を?」
「ジブンで、サワってさ…ほら、手で、握って!」

木ノ宮の手が…オレの手をとり…
その手が…オレのモノを………握らせた…

「な!?…アッ?!…あっ…?!」


……!?


「はっ…ぁ…あぁっ…き…きさま…?!」
いきなり上下にしごかれて…ズキンと中心が粟立ってる…
「あ、…ン、……はぁ……やっ…やめ…ッ」
「どお?…イイ?」
「な…な…」
「いやカイってさ」
呆れるほど他愛ない唇が、くすっと笑った…気がした…。
「独りんときは、どんなカンジでシてんのかなぁ…?と思ってさ」
「な…な…?!」

繋がったまま…小刻みに腰で突かれ…
手を…拘束するように押さえられ…
重ねられた指先で…一緒に…オレ自身を扱かれ…て…

「ア、ア…うァっ…」
「なんか…すげーもぅ…イッちまいそーだけど…」
「てっ…手をっ離せっバカ!!」
「うん、今、離すから…じゃあジブンでしてみてくれよ?」

くったくない声で、バカみたいに興味津々、ねだるくせに…
煽る吐息までが…耳の奥をくすぐって…くる…

「なァ?いつもは…どんなカンジ?指は、使わねえの?」
「アァッ…ふっ…」
鈴口のあたりを…重ねた親指でぐりぐり擦られて…
思わず…腰が上下に…震えた…

「あっ…あっ…あぁっ…」

オレを完全に無視して…勝手に強く主張してくるオレ自身を…オレの手の中に…じかに感じて…
アタマの芯まで、火がついたように…熱い…

な……何をさせられてるんだ…オレは…!?


「なぁ?…だからさ〜
…指は…後淫ろにゃ挿れねぇのかよ?」
「だっ……誰が…そんなっ…」
「いーじゃねえかよ、べつに、いまさらァ」
「あっ…あっ…やッ…やめろ!!てっ…手をッ離せッ!!」

べっとり濡れたジブンの指の間から…先走りのヌメリが滴って…木ノ宮の指まで…一緒に…濡らしてる…
内壁の性感を…腰で突かれ刺激されて…ただでさえ勃ち上がってるモノを…木ノ宮と自分の手…二つに…掴まれ煽り上げられて…

な…な……いったい……なに…が

「アァッ…はぁッ……あぁ…!?」
「なぁなぁ?だからさァ…いつも、おまえ、オレのコト…考えながら、してくれてる…?」
「ア、ア…きっ…木ノ宮ぁっ……」
「オレと離れてた間とかは…?…どんなだった?…そのあたりがァ、オレとしちゃ、すげー聴きてえトコだったりして…」

て…なにを聞いてるんだ、おまえ…っ
……こんな……これじゃ…木ノ宮の目の前で…要望通りに…自慰を…

こんな……コイツの…目の前…で…

「なぁ〜カイ〜?」
「う…うるさい!!どうでもいいから、やめろ!!」

「えー…だって、おまえだって、たまにゃてめえでするだろぉ?」
「ば…ば…バカなことを聞くなっ!!」
「えぇ?…?…ああ?おまえ…もしかして…恥ずかしーの?」
「ちっ…違っ…」
「ンなことくれぇで、いまさら照れなくたって、いーじゃねえかよ。いっつも、もンのすげえカッコで乱れてるくせに〜」

な??…なにを??……のんびり気の違ったコト、ホザいてるんだ!?
というか、きさまオレに、何させてるんだ!!

っていうか、きさま…いったい…!?


「だぁ〜って、おまえ…」


くっくっ…と…まるで、

「何も恥ずかしかねえだろ。自然現象だぜ、シゼンげんしょー」

喉の奥で、からかうように、笑われて…

「どーせ、よく見えねぇんだし。ん〜オレ的にゃ、ちょっと残念だけどさ〜」

……そういえば…
すっぽりシーツをかぶったみたいに…闇に隠れていたんだと…思い出した…


そう…だった…
この暗がりでは…細かいものなんて、何も…見えやしない…

オレの痴態だって見えやしな…

「なぁってば?だからよー?指は?後淫ろにゃ挿れねえのかよ?」
「きさま、じゃ…何で…!!」
「でも…挿れたほうが、悦んだろ?この場合…」
「はぁっ……うっ…」

木ノ宮の手に…右手をつかまれ…自分のモノを握らされ…扱かされてる…
同時に自分の左手を
口腔内に突っ込まれ…自分の舌を嬲りながら…掻き回され…る…

「んん…うぅ…っ…!?」

木ノ宮が…突然、出ていって
冷んやり
ひくついたソコを…不安定な外気と青葉に…撫でられ…た

「あ……ッ…」

…唾液まみれの…自分の指で…自分の後淫ろを弄らされて…

「あ…あ…ああぁ…ッ…」

だんだん…埋め込ま…れ……

「アッ、アッ、アッ…」

抜き差しされ…掻き回され…て…

「あ、あっ…ん、ア…」

どうしよう…

なにか…

変だ…

「やッ…やめッ…」

まるで土や草や…風にまで…犯される気がして

目隠しされたみたいに
暗闇で、視覚がない分…感覚だけが敏感で…余計に…感じる…

「あっ、あっ…あっ…よせ…ッ…」

異様な快楽に…弄られ……おかしく…され………る…

オレ自身の…奥の奥まで…えぐられ
裸に剥かれて…

酔って正体を失くしたみたいに
オレは……自分から、しゃべり散らしてるんだ……

いっしょうけんめい…ジブンで抉って…ジブンで扱いて…
アタマもカラダも、
目の前の、コイツでいっぱいなんだと…

いつも…こっそり、していたみたいに…
木ノ宮にまで……見せつけている…

そん…な…バカ…な…

「はっ…んっんっ……あぁ…」


…どう…しよう…

…ナゼだ……止ま…ら…な…

いやバカな。…そんな…そんなハズない。
何も、見えないはずなんだ。

…なのに…
はっきり…感じてしまう…

タカオが…オレを視ていて……欲情してる…
…嬉しがってる…

そんなわけ…ないのに…

オレは何をしてるんだ?
こんなの…
オレ自身にだって…絶対、秘密だったのに…

とりあえず終わった直後には、もうぜんぶ忘れて、なかったことにしておくほど…オレだって…認めてないのに…


…変…だ…

…躯が…勝…手…に……

「ぁ…ん、ん…はぁ…きっ…キノ…ミヤ…ァ…ッ…」

堰を切った涙みたいに…嗚咽しながら…
ジブンで扱いて突っ込んで…タカオを呼びながら…腰を振って…好がってる…

こんな…

おか…しい…こんなの…オレじゃない…

オレじゃ…な……の…に…

キノ…ミ…ヤ…ッ…



どう…すれ…ば…

…助…け…


「んっ…んぅっ」

唇を

急に、ふさがれ
口唇いっぱいに咬みつかれて

舌ごと吸われて…

「んっ…んん…ふッ…」

息が止まるかと…思った。

「ンッ、ぅッ…んぁ…ア、アァ…ッ」

いきなり抱き締めてきた、濡れた躯に、
…ほっとして…

……思わず、かじりついてる…。必死に…全身でぶつかるみたいに擦り合って…まるで…喰い合うみたいに…
咬みあい絡めあい………熱した欲望で…入り混じって…

もう…どうでもいい…
いいから…このまま…

「ア、ア、ひぁ…ッ…」

腕をとられ、ジブンの指を引き抜かれた…
…寒い…

…寒…い…?

だが
すぐ、もう一度…タカオが…挿入ってきたから

「ア、ア、ア、…あぁ……ふ………」


圧倒的な実感と快感に満たされて…ゾクゾク全身が痺れてる…

「あっ、あっ…アァッ…」

壊れるほど挿出され…尻を指で食い込むみたいに捕まれ揺さぶられて…こんなに……喜悦し続けて……
おかしいんだ…なにもかも…

…もう…

なにも…かも…


「アッ、アアッ…アッ…」
「すげっ…なんか…おまえんナカ、さっきよりっ、熱いしっ、…そんな、すげ絞めて、きてっ…」

「あ、あ、は…ぁ…ッ…アアァ…うッ…」



「へへ…やっぱ…独りで、欲しがって…悶えてるオマエも、イイ、けど、さ」

…?!


「き…さま…?!」

「おまえも…独りでするより、こっちのが、もっと、キモチイイ?」

……な…



「カイ…ッ…」
「ア、アァ…ひぁッ…」


………なにか…ハメられ…た…?…気が…

なのに 、しがみついたオレの腕も…ぐしょ濡れで
中のタカオと…オレ自身の…区別もつかない…。
一緒に重ねた手のなかで…一緒に擦られたオレのものが…はちきれそうに溢れてて…


「はッ…ああ…ッ…」

イイんだ…もう…そんなの何でも…
なにもかも……みんな…

…一緒…で…

「カイっ」
「ア、う…う…ッ…」


重ねた…手のなかで…


勢いよく弾けて…散ってゆくものが……

アタマが真っ白になるほど…



…すごく…熱……い…





「えっへへ…ごめん…カイ…」


溶けるほど火照った躯を…タカオが…まだ挿入ったまま…ぎゅうっと抱きしめてくる…。

「ンンッ…ンッ…ン…」

唇を…また貪るみたいに…咬んで…

「…う……ッ…ふ…」
「けど、なんだか嬉しーなァ…オレ…。知りたかったことも〜…イロイロわかったしー!…」


コイツは……

やはり、なにか… いつもより…ゼッタイ喜んでる…。



何度も…何度も…口唇を犯されて…
まだ…苦しいほど… 抱き合って…


…それから



「…!?」

不意に、唇を離して笑ったタカオに

ペロっと…乳首を舐められた…
「ア…ふ…」
そのまま…強く、吸われてる…

「ア…あァ…っ…」

それから…滑らかな舌先が…唇で吸い上げながら…胸を縦に嬲って、おりていく…
…上下に…三度…

鎖骨にもどって上腕へ這っていき…少し噛まれた。
そのまま二の腕を、何度も横に舐め上げている…。…ヒジも…その下も…舌のハラで…丁寧に、たどって…


「えっへへ!」


なに…してるんだ…おまえ…?
なにか…いつもと…感じが…違…う…。

…?…オレの…薄くて軟らかくて…傷んだように敏感な部分ばかり…狙ったみたいに…


「…はッ…ぁ…!?」

…急に抜かれたと、思ったら……太股を…吸われた……

内股を、今度は、二度…

……斜めに…五度…舐め上げて…
また横に…二度…吸い上げて…
裏も…表も…臀のほうまで…

「う…ん…ッ…」


なん…だ…?何なんだ?
なんで…タカオは…そんなにも、嬉しそうなんだ…?
なんで…いつもより…些細なくせに…オレは…強く感じてるんだ…?

「は…っ…ンン…ッ…」


「なぁなぁ?オレってさ、やっぱ、すっげーと思わねえ?」

やはり…タカオが…いつも以上に…笑ってる…
だから…何が…?


「もぉオレ…どんだけ真っ暗だって、わかっちまうぜ…。何も見えなくたって…ぜーんぶ、憶えちまってる…」


だから…なに……



…?!



ああ…


…唐突に


気がついた。


………そう……か……


オレの全身には、
…皮膚の引きつれた…ひどく醜いキズ痕が…無数に残ってる…

長いことかかって身体の、あちこちに刻まれた… もう消えない、そのキズを…

コイツは、さっきから…暗闇の中で、ぜんぶ探しあて…
ひとつ、ひとつ…舐めているんだ…


「ヘヘ!…。もぉオレ、なーんも見えなくたって…おまえのキズの、位置も、カタチも…おまえのカラダも…おまえ表情も…みーんな憶えちまってる…」
「……」
「おまえが、今、どんなカオしてんのかも…なんか、わかっちまうぜ」
「……」


おまえ…それを…確認するために…?
しかし、おまえ…いったい…
いつのまに…そんなことに、なったんだ?

いや待て。
それじゃ…やっぱり…

なにもかも見られてるんじゃないか…
オレの…さっきの痴態も……何もかも……


こんなのは…だましうちだ…




羞恥のあまり、逆ギレしそうになったのに
だが、
オレだって、同じなんだと

気がついた。


見えないのに…
はっきり感じる…


もう互いの表情が、息遣いだけで、わかってしまう…

オレは…
コイツの…ささいな仕草も、知っていて…
驚いても、喜んでも、瞳が少し真ん中に寄るクセとか…
冬は手のひらが、少しだけカサついて……竹刀を握る部分と、ラバーグリップを握るところが、別々に硬いのも知っている…

さわった肌の感触や…反応、匂い…微細な筋肉の動きから……ココロの動きが…空気みたいに、どことなく読めてしまう…
何も見えないのに、
ひどく欲情して…コイツも同じなのが、なぜか、わかる…

「あ…アァ…んっ…ぅ…」

「へへ…カぁイっ!」


木ノ宮が

まるで、くすぐるみたいに

オレの醜いキズ痕を…舐めてきた…

このなかには…木ノ宮につけられたキズだって…ある…。数えきれないほど、ある…。それを知って、自分も傷ついて…それでもタカオは…後悔も、慰めも、なにもかも越えてしまったみたいに
ただ…ほんの少しだけ…辛い心を滲ませて…慈しむみたいに、オレのキズを、舐めてくる…


こんな…
…こんなの…って…


「えっへへー!カイー?…やっぱオレ、すっげーかも。これってさ…」


見てなかった頃のオレまで…みんな…告白させて…


「アイのチカラってやつかなァ〜?」


バカみたいに…シアワセな顔をして…


オレに出会ったことで…
おまえだって…本当は、たくさん…辛かったくせに。
不安だったり…苦しかったくせに。

なのに…それ以上に…

みんな、なにもかも乗り越えて、強くなって…
おまえは…なんで…
そんなにも得意気で、嬉しそうなんだ?


「カーイー!愛してる!!世界中で、イチバン、一番、愛してる!!今までも、これからも!!…ずっと、ずっと!!どんなことがあったって、ずっと、ゼッタイ愛してる!!このキモチがオレの、一番大事で、超最強パワーだから!…だから、オレは、誰にだって負けやしねえし……おまえにだって、このチカラがある限り、ぜってー負けやしねえぜ!?」


なに言ってんだ…この…うすらバカが…
また…大きな瞳を、ちょっとだけ真ん中に寄せて…きらきらさせて………

…ああ…もう…こんなバカには…付き合いきれない…。
こんな…オレまでが…
…胸が震えるみたいに嬉しくなってきて……バカみたいに…


みんな、オマエのせいだ…木ノ宮…


「………」

なんだか無性に悔しくなって…
キモチの置き場に困ってしまって、

しかたないから、

仕返しに、
タカオのも、掴んでやった。

「じゃあ、おまえのも、してやる」

「え、え…え〜!?」
少し、カラダをずらして、
「ちょ……カイ!??」
コイツの股間に、もぐりこんで顔を埋めたら

「マジ?」

タカオが、オレを見下ろして、驚愕した…。

「……なんだ?不満なのか?」
「いや、そんなワケは…てぇか、めっそうもねえ…てゆぅか…え…え?…ええええーっ!?」

おもしろいな、おまえ…何をそんなに慌ててる?
オレがせっかく、特別サービスしてやろうってのに。

「いっ…いいよっ…そんなのっ…おまえの顔、汚れるし…」
「ふん?遠慮するな」

タカオが慌てて、おもしろいし。ちょっと、先のほうに、キスしてみた。

「わ…わ…わわわ…」

照れたみたいに、赤く脹れてる。いつも…こんなモノが、オレの中で暴れてるのかと思うと…なんだか可愛い気もするが…

…そっと舐めて、くわえてみた…

「わっ…ちょ…待っ…カイ!!」
「……んッ…んッ…」

なん…?…急に、ビクビク動いて…舌のナカで…大き…く…?
口の中が…タカオで…いっぱい…に…
ちょ…これ以上は…咥え…られ…な…

「…わ…わ…!!!……わぁああっ」

「ぐっ!?…げほっ……ごほっ……!?」
「う…うわああああっ…ごめんーっっ」

「きさ…ま…」

いくらなんでも…イキナリすぎ…だぞ…おまえ…

オレのノドも…唇も…頬も…口の中も…
突然、噴き出してきたコイツのもので…一杯に…
あちこち…白いものが…涎みたいに…滴って…

…かなり…飲んでしまった……

…………。

「どっ…ど…どうしよう……カイの…かっ…顔に…おもいっきり…かけちまった…」

オレの頬を、焦った両手が、ゴシゴシぬぐってる…
………。
なにか…形容しがたい…変わった味だが…匂いも…ときどきタカオの口から戻ってくるジブンのとは…明らかに違うが…べつに…嫌じゃない…
………??
しかし、…おまえ…いったい、何秒…

「きさま…早す…」
「言うなってー!!」

泣きそうに情けない声張り上げて
まだ、ほとんど何も…やってなかったのに…

「だっ…だーってよ〜おまえの小っちゃな口で…オレの…て…思ったら……そんだけで……だって…お…オレだって…だからっ…こっ…心の準備が〜っ…」

こっちの準備は、いつでも万端のくせに…なんて、だらしのない…
まったく。

もう
…笑ってしまった。

そしたら木ノ宮まで、
笑いだして。

どこか間の抜けた空には、
月もない。
ただ…梢の間から…鈴なりの光みたいに…かぞえきれない星々が見えている…



「うわ」
「?」


少し、ぼんやり見上げていたら、
いきなり、がばっと押し倒されて。

何事かと、思え…ば


すぐ近くで…複数人の…気配がする…。

「わーやべー。人が来た〜」
「な…」

そう…だった…。 うっかり忘れてたが…
ここは公共敷地だったんだ…

植え込みにさえぎられた芝生の中で…
下半身をさらして、ぴったり抱き合ったまま、木ノ宮のジャケットを二人で引っかぶり…草むらに倒れて、身を縮め…すぐそばを、足音が通りすぎるのを、息をひそめて待っている…

なんてことだ…

下着を、全部おろされたままで…ハマってないのが、せめてもの救いだが…
こんな現場を他人に見られたら…オレは一生、きさまを恨むかもしれん…。

……いちいち…スリル満点だ…

な…の…に…
こっ…こいつ…また…

「わは〜カイの…アタってる…」
「違うっ…きさまのだっ………!?……何す…ッ…」
「しーっ…声出しちゃダメだろ」
「…ひッ…は…」

ヤメロ!!バカ!!
なん…で…

硬くなりかけたタカオのモノで…オレのモノが…また…擦られてるんだ…?!
「は…ッ…ぅ…」

バカ…動くな!! この…まま…じゃ…

「ンンーっ……」

…自分で自分の口をふさいで…必死に抵抗したら…
腰が動いて…余計に……

「んっ…んっ…ッ」
「ガマンしろよ、カイー」

だっ…誰のせいで……

「静かに〜ってば〜」
「…んんッ…」
「わ…やべ…あんま動くから、オレも…」
「んん〜ッ…」

「〜どうしよう…」

どうしようじゃ…ないだろ…!!おまえ…

「……ん、んん、…ッ…」
「このさいだから…このまま…イっちまっても………ダメ?…」

ダメ。
と言ったら、止まるのか?

「ははは〜。ムリかも〜」


何度、オレに、かければ気がすむんだ…
おまえは…

「でも…カイもだろ…?」


〜〜〜〜。




足音が…無事、遠くなってる…。

「あははっ!…ま、これ、オマケな、オマケ…」

なにがオマケだ……
…どこでもかしこでも、場所もわきまえず、オートで発情しやがって…〜〜

重なったまま、
ゴソゴソ一緒に起き上がったら、


…もう…上から下まで…すっかりドロドロに…
なにが、下だけちょっとにすれば、だ。
どうやって帰る気だ…

思わず目眩しかけていたら…

「あ、そりゃ、近くに水道あるからヘーキヘーキ」

…………なんで、きさま…そんなこと知ってる…?

「洗えばカンペキだぜ!…いちお服は、なんとか、だいたい無事だし〜」

………かもな。きさまのジャケット以外はな…

しかし何も気にしなさすぎる無神経なコイツを、
とりあえず、どついてやろうと思った、

その拍子に

一緒に、かぶってたコイツのポケットから…何かが、転がり落ちた。


「…!!」


「あ…?…さっきの…カード…」


「……」


「そうだ…これ。おまえに返さなきゃ…って、こないだから思ってたんだけど…まーた忘れてたぜ」



要らん。

と、言いそうになって、とりあえず飲み込んだ。ほんとうは見たくもない。
だが、とりあえず…現実問題として、必要だ。
だいたい…
いろんなオレの出費やら何やら、やたらと、かさんでしまって…それで、 いちいち面倒だから、ぜんぶコイツに預けたままにしてあったんだ。

「そういやさ、病院の支払い、全部で100万以上かかってて…も〜どうすんのかと思ったけど…。余裕で足りてた」
「……」
「なんか、ものすげえ大金、入ってるぜ?やっぱ、おまえって、おぼっちゃんなのなー」
「嫌な言い方をするな」


「カイ?」


オレが黙っていたら、タカオは、
どういうつもりか、急に大人びた声で苦笑して…
それから、

「ちょっと…びっくりしたんだけど…おまえにも父ちゃん、いたんだよなぁ…」

おかしなことを、言い出した。

たしかに…
そこに落ちたカードには… 今ははっきり見えないが…あの男の顔写真と、名前が…刷りこまれてるハズなんだ…。



「んんっ」

タカオが…何を発情したのか…また突発的に…唇に咬みついてきて…
舌で舌を舐めあげながら…
乳首を…まるでツネるみたいに…軽くつまんで嬲ってくる…。

「…ん…ぁ…っ」

ひとの躯を弄りながら
「…ま、そりゃいるよなあ。…カイだって、ちゃんと、父ちゃんと母ちゃんから生まれたんだもんな…」
…なにを…含んだ声で呟いているんだ…?

「ぁ…あっ…」

また快楽に飲まれそうになって、
オレは、慌てて否定した。

「よけいな世話だ!」
「ええ?」
「あいつらが勝手に作っただけだ。オレが頼んだわけじゃない」
「…カイ?」

ちょっと驚いた顔で、タカオは、オレの瞳を覗き込んでいる。
それから、
「あッ?!…ぁっ…」
また…ひとの下半身を握り込んで…先端からゆっくり扱きだした…。
「は…あッ…う…」

きさま…なんで…こんなときに…
そ…んな…ッ…

「けどさァ…父ちゃんと母ちゃんは…大事だろ?」

ひとのカリのあたりを親指で嬲りながら…木ノ宮が…聞いてくる…

「違…ッ…う…」
「ええ?…じゃあ何で、おまえ、こんなの持ってるんだよ」

だ…か…ら…きさま…

「カイ?」
「あっ、あっ…あ…く…ッ…」

また達きそうになってしまって…ただでさえ敏感になっているのに…
動転したあまり

「は…ッ…ぅ…」

ようやく、
コイツを突き飛ばして、
草むらに倒れ込んだ。


すると


目の前に…落ちたカードの鈍い光が…転がっている…。


「…………んんッ…」

性懲りもなく、またしても追いかけて覆いかぶさってきた木ノ宮に、
また舌を絡め取られて…激しく嬲られる…

ああ…もう…好きにしろ…
と…ついにアキラメの心境になってきた…が…

それでもオレの視界には、ゴールドのプラスチックカードが…真正面に、映っていて…
なんとなく…カードに視られてるみたいで…

… 嫌な気がした…。

「けどさ、すごく大事だから、持ち歩いてるんじゃねえのかよ?カイ?」
「違…う…っ」

そんなわけじゃない。……とりあえず、家を出るのに…金が要ると思ったが。祖父の金を使うのが嫌だったから……どうしようかと屋敷を物色してたら…
母親のドレッサーから、たまたま、コレが出てきた。
一番小さな大理石の引き出しの奥に、よく気に入りで使ってたシルクのスカーフで包んで…まるで隠すみたいに置いてあった。

見つけたのは、ただの偶然だ。使ったのは、金のためだ。


「でも…父ちゃんと母ちゃんは…大事だろ?」
「なぜだ?」
「ええ?…だって、そりゃ…」
「あんなものが…大事なものか」


祖父が逮捕された後、 一度だけ、あいつが戻ってきた。ちょうどオレが寮にいた頃だ。だが、祖父が釈放されたとたん、また姿が見えなくなった。
母親は…たしか居たはずだが…いつのまにやら見えなくなって。ある時、使用人から、
実家に勝手に戻ったあげく事故で死んだと聞かされたが…。墓も遺影も見当たらないから…本当は、祖父に追い出されただけで、案外どこかで生きてるのかもしれない。

どうせ…

火渡の血を再生産するためだけに、祖父に雇われた女だ。あの男が火渡を捨てて出ていった以上、祖父にとっては、すでに用済みだったのだし…
今後、相続させざるをえなくなる火渡家の財を考えれば…わざわざ不要なものを家の中に置いておくほど、あの祖父は鷹揚じゃない。それだけのハナシだ。

しょせん、くだらん財だが…

もっとも屋敷では、あの二人の話題は、絶対に禁句だったし。とくに、あいつの名なんぞ出そうものなら、祖父のキレっぷりは凄まじかった。
己の…
もっとも自由になるハズと確信していた、己自身の血そのものが、己を手痛く裏切る…それが耐えがたい屈辱と怒りだったのだろうが…

だが、オレも…とくに知りたいとも思わなかった。
あんな地獄屋敷にオレを置き去りにして、自分だけ逃げた連中だ。とくに、あいつはそうだ。そんな男との関係など、オレの知ったことじゃない。


「でも、カイ…」


また口唇づけてきたタカオが、
ようやく離したその手を…今度は…オレの首筋に回した。

「オレは、やっぱり…知りてえなぁ…」
「何を?」

「おまえの父ちゃんて、どんなヒト?」

「……なんで…そんなことを…知りたがる」
「だ〜っまたまたンな怖ぇ顔すんなよ」
「……おまえの父でも…ないだろうに…」
「そりゃそうだけどさ〜。カイの父ちゃんだからだろ?オレはカイが大好きだから、カイのことは何でも知りてえぜ?」

そんな…もの…か…?…
あいかわらず…フシギな反応をする奴だが…

「なぁカイ?おまえの父ちゃんて、どんな人?」
「………」

……しかし…そう…言われても…

じつは、ボーグで一度、記憶がとんで以来、どうもその前後になると、今でもところどころ脱け落ちていて…あやふやなんだ。

残るほどの脳障害でもない限り、本当の記憶喪失ってのは、あまりないらしい。
ただ、あまりに酷いストレスのかかった記憶は…自己防衛上、思い出せずに、そのまま忘れてしまったりするそうだ。

ボーグ時代の、生活は…
当時のオレには…誰しもこんなものだと思っていたから、特に、自覚もなかったんだが…
…今思えば、そうとうキツかったのかもしれない。今でも時々うなされるところをみると…やはり…ロクな記憶じゃないんだろう。
幼少時代の想い出は…あの男が出ていって以来、嫌な記憶しか、なくなってしまって。その嫌な想い出の発端だから…ボーグの記憶と一緒に、あいつに対する感情や思い出までも……ほとんど…封印されていたらしい…。


タカオと一緒に…暮すまで…。


みんな、何もかも…
あいつのことだって、全部、忘れてしまっても良かったのに。

いったい、なにがオレを引き留めたんだろう…?


「けど…なんかオレ、…わかる気すんだよな〜」
「なにが」
「おまえの父ちゃんのキモチ…」
「………なんだって」

タカオが、また…奇怪なコトを言って…
今度はオレの額に…キスをした…。

「おまえを置いて、黙って出てっちまったのは…たぶん、おまえのコト、すごく信じてたからだろ?…カイなら、自分がいなくても、きっと大丈夫だってさ」
「………」
「カイなら、独りでも大丈夫だって、たぶん、思ったんだよ」
「………」

それが…もしも…本当なら…

いらん信用だ。
よけいな世話だ。

どうせオレは…そんなに…


……強く…なかった…


「オレも…」
「木ノ宮?」

オレの首にまわされたタカオの両腕が…こんどは…静かに包み込んできた…。

「オレも…おまえのこと、オレより、ずっと大人だって、思ってて。いや、今だってそうだとは、思うけどさ?…おまえは……誰にも解決できねえほど、すげー困った時だって、頼れるし。
おまえの指示なら絶対ぇ間違いねえって…おまえに譲るのも。おまえが賛成してくれたら、自信が出るのも。逆に、おまえに反対されると、グラついちまうのも…おまえのコト信じてるだけじゃなくて、おまえの言うコトなら、たぶん間違いねえんだろうって…そう、思ってるからだよ。今だって、それは…いっぱい、そうなんだぜ?……けど……」

不思議に暖かい声が…オレを包んでくる…。

まるで…なぜか、オレの代わりに…泣いてくれてる…ようだった…。


「おまえは……ふつーの奴より、ものすごく優秀で、ガマン強い奴だから…。どんなに重てぇ荷物、背負わされても…泣きもしねえで…放り投げもしねえで…きっと……黙って、背負っちまうんだろうなって…」
「……」
「おまえは、すげー奴だから、ちゃんと背負うんだよ。 だけど…おまえだって、それ、本当は、すごく重いんだよ。潰れちまうほど、重かったりするんだよ。それでも、おまえは、それを絶対に、放り投げたりはしねえんだって……なぁカイ?そうだろ?」

「………」

「おまえの父ちゃん、おまえがちゃんと背負えてるから…だから全然、平気なんだって…きっと…思っちまったんじゃねえのかな…」

「…………」

「カイ…オレ、このごろ思うんだ…。大人だって、そんなに何でも知ってるすげえ生き物じゃねえんだろうって。ムズカシイんだよ…人のキモチって…。きっと、ずーっと高けぇ上から地上を見下ろしたら…大きなガキと小さなガキが、必死に生きてるだけなんだよ…。だから…すぐにはわからねえことも、いっぱい、あって…。おまえが…父ちゃんがわかんなくて、ただ見送っちまったみてえに…父ちゃんだって、おまえがわかんなかったのかもしれねえよ…」

「…………」

…たしかに、
あいつは、思春期のガキみたいな男で…

そうして、オレは…

オレも

……泣いて暴れたってよかったのに。

あのときも、引き留めず、オレはすべてを受け入れた。

なんでも…オレは、受け入れてきた…
どんな辛い訓練だって…


そんなものだと…思っていたから…



「カイ?……いいぜ?言いたくねえんなら。無理には聞かねえよ。でも、いつか、オレ…おまえの父ちゃんに、会いてえな。そんで…お礼、言わなきゃなんねえぜ」
「礼?…おまえが?…なにを?」
「えぇ…そりゃトーゼン…」

タカオが、笑った。
世界中の悲しみさえ、守って包んでしまいそうな…笑顔だった…


「カイを…この世に連れてきてくれて、ありがとう、ってさ」


「………」


「カイ…。父ちゃんと母ちゃんは、おまえをこの世に生んでくれたんだぜ?だから大事なんだよ。でなけりゃ、オレ、おまえに会えなかったわけだし」


「………」

そんな…バカな…こと…が…
たった、それだけのことに…価値なんて、あるものなのか…。ただ、存在するだけの、価値なんて…

…どうして…おまえは…いつも…

ましてオレは…

いつだって…間違ったことしか…してこなかった…

いまさら否定する気もないし、
オレはオレなりに真剣で、一生懸命だった結果だが…
それでも…
…いつも…必死な分だけ…愚かなことしか…出来なかった…のに…


「なに言ってんだよ、おまえ…。おまえは、オレにとって、どうしても必要な人間なんだし。…おまえが生まれてこなかったら、オレ、おまえに出会えなかったんだぜ?感謝してえよ。それだけでも、うんと、さ。だから、いつか必ず会って、オレは、おまえの父ちゃんに、お礼いわなきゃなんねぇよ」

その笑顔が…

あんまり、あたりまえに自然だったから…オレは…
オレにも…
少しは…何か幼い頃の、優しい思い出の…カケラみたいなものが…あったのかもしれない…という気はした。


「おまえはさ、きっと忘れてるんだよ…昔のこと…」
「…どういう…意味だ…?」

「だってよ…父ちゃんのことだって、おまえが…ダイスキだったからだろ?ほんとに、どうでもよかったら、何も起こらねえよ。最初から、おまえが何も感じねえ冷酷ヤローだったら、傷つかねえし、どうでもいいんだよ。あんまり、いっぱい愛してたから…おかしくなっちまったんだよ。…そうだろ?」


…………。


「ほんとに愛してるってさ、カイ…それだけで、すごく、すごく重たくて……きっと大偉業なくらい大変で…ときどき同じくらい痛かったりして…でも…そういう痛さも全部一緒に……とても…とっても…大事なことなんだよ…」


…………。



今なら…わかる…その意味が。

…かも…しれ…ない…。
今なら…そう…認めてやってもいい…。


オレが、おまえと居ることで…思い出したのは…

憎んでたことじゃなくて。

愛してたことだった。




オレは…あの男が、好きだった。


父さんが…とても…好きだった…。


裏切られたと泣いた後、


もう二度と、優しいものは、何も信じないことに、してしまったほどに…



それまでのオレは…美しくて明るいものを…本気で信じてた…大好きだったんだ…本当は…暖かい場所が…

あいつの夢が、好きだった。
世界中の誰かを幸せにしたいと、いつも夢みたいに語る、輝く瞳が好きだった…
握った両手の、優しいぬくもりが好きだった。

そこに素直に甘える、なんのためらいもない自分がいた……たしかに、いたんだ…

だが、それは…昔の、オレだ。
壊れる前の…今とは別の、オレなんだ。

あのときのオレは…もう、とっくに死んだと…思っていたのに。
まだ…生きていたんだろうか。

どこかに
タカオとの、生活の中に…その影を見た気がして

だから…ずっと…怖かったんだ…。

オレは…

あの男への本当の気持ちを…思い出すのが…怖かった…。

だって、そうだろう?
すべてを許して、幸せになってしまったら…

オレが…オレのカタチが…わからなくなってしまいそうで…。

これまでの、苦痛や憎悪のすべてを許して、失くしてしまうには…
それは、あまりに、オレでありすぎた…。

憎しみを…
それを力に、ようやくここまで来れたオレを…
そこから生まれた努力や闘い、苦しみを……なにもかも…いっさい消してしまったら…

……オレには…たぶん…何も…残らない…
オレの根幹が…消えてしまうから…


オレの存在が…何も…残らない……



「違うぜ?カイ…」
「木ノ宮?」

「それは…ぜったい、違うよ…」

なぜか、タカオが、オレを凝視つめて…小さく笑ってる…。


そうして…


「オレさ、実は…も1コだけ、これから行きてぇトコあるんだけど…」
「なに?」
「オレの…とっても大事な場所…。だからカイ…一緒に付き合ってくんねえかな?」



促すみたいに、そう言って。
唇に、そっと、また…キスをした…








■to be continued■