湾岸から、木ノ宮の家と反対方向へ歩いていくと…

急に…石とレンガ造りが多くなる。


「こっち側って、オレ…あんまり来たことねぇんだよなぁ…」
「……」
「けど…ミョ〜に…フンイキ、違うってゆうか…なぁカイ?」

たしかに、赤レンガの倉庫群を通り過ぎたら、道幅が、3倍以上は、広くなった。

古めかしい旧官公庁の建物がずらりと威嚇し、「お!コレ、おまえん家と似てねぇか?!」と木ノ宮が指さした、迎賓館の前を通り過ぎると、
黒っぽい石畳を踏むオレたちの足音が、コッ、コッ、と硬い音をたてている。

さらに歩くと、勾配のキツイ坂道が現れ、
広い敷地をもつ教会、外国人墓地もある小高い丘、
そこへ続く、ガス灯を模した西欧風の街灯が立ち並ぶ…ゴシック調の古い街並が見えてくる。

「なぁ、カイ…。おまえ…さっきから、ずっと黙っちまって…どこ行く気だよ?」
「……」

独特のビザンチン様式が、あちこちに入り交じる、それらを見回しながら、

「カイ…?」

木ノ宮が、オレの背に…
ふと…
…まるで支えるみたいに…腕をまわして、手を添えた。

が、その感触さえ、なぜか今は…あまり…感じない。

「なぁ…?おまえ、一体…」
「黙ってついてこい」
「行き先くれぇ教えてくれたっていいだろ?」
「……きさまが、空腹だと言うから……食える所まで連れてってやるんだ」
「あ…そっか……そうだよ…すっげぇハラ減ってたんだよ、オレ…」

なんだ、忘れてたのか?

かもしれない。
湾のこちら側へ歩きだしてから…
…まるで、オレのが伝染したみたいに、コイツまで緊張している。

「カイ…?」
「……」

さっきから…一足、進むたびに、ひどく息が、苦しい。
近付くにつれて…胸が、巨大な力に圧迫される気がする。

ずっとここに居た頃は、それほど感じなかったはずなのに。

なにか、呼吸が…

「おい、カイ?」

だんだん…速くて…浅くなる…

「おまえ…どっか、おかしくねぇか?」
「べつに」
「いや、変だろ?やっぱり…さっきより…顔色悪ィぜ」
「……」

そのとき、

「あああっ!!やっべぇーっ!!」
閑静な周囲がひっくり返るほど、木ノ宮が、突拍子もない声を張り上げた。

「オレら、さっきから1時間以上は…ぶっ続けて歩いてるよな…!??」
「それがどうした」
「すこし休憩入れねえと!!休憩ーっ!!!」
「……いい。オレは疲れてない」
「ダ〜メだっつーの。医者からうるさく言われてんだよオレは〜」
「……」
「あ〜〜も〜〜バッカじゃねえか、オレ。なんだって忘れてたんだ。大変じゃねぇかよ…おまえに何かあったらー!!」

ひどく慌てた腕が、それ以上の勢いで、問答無用に…立ち止まった。


「ん〜…平気かなぁ…?」

街路樹の下にある、アール・ヌーボー風のブロンズベンチに、オレをムリヤリ座らせて、
深刻な顔つきで…

しきりにオレの胸へ、まるで壊れものでも触るみたいに、そっとタカオが、手をあててる。

「あんまり長いこと歩かすとさ…発作起こすから、気をつけろって、…おまえ、よく、無理すると息出来ねぇって…あれだよ、あれ…一番怖ぇの。あと、走んのだろ、転ぶのとか、熱出すのとか…なんかNG多いからなー」
「……べつに…今のは、そんなことじゃない。だいたい、この程度でなるものか」
「そーか?……けど起きちまったら…救急車呼ぶしかねぇからな…。んん……大丈夫かな…」
オレの心音に耳をあてたり、額に手をあててみたり、瞳をまじまじ覗き込んだり…あちこち熱心に、ひとを点検していた木ノ宮が、
ようやく顔を上げた、

と思ったら、ベンチに潰れた。

「はー。今、一瞬、モノスゲェびびった…〜〜〜」

「きさま、考えすぎだ。慣れない気ばかり遣ってると、壊れるぞ」
「……つってもなぁ…。おまえ、平気そうにしてるから、うっかりダマされるけど……いっぱい大変だったしー」
潰れたまま、オレのヒザ付近で、なにやらブツブツ言っている。
「足のことだけじゃなくてさ…。試合の後…てぇか、その前から…ひでえ重症だったし〜。一歩まちがうと死んじまうほど大ケガだったって…後からわかんだよ、いっつも後から〜」
「といって、きさま……胸の3本キズが、オレ達おそろいだ〜!……だのと…浴室で…喜んでなかったか?」
「そぉだけどさぁ…。おまえ、オレみてぇにガードしねえから攻撃モロにくってて酷かったんだよ。どれもこれも」
「……」
「右目とかもさ、最初、半分下がっちまったまま、なかなか元に戻らねぇし…それだけでも、マジ、ドキドキだったんだぜ?オレ…」

…?…それで、包帯とるなと…うるさかったのか?

「あ〜〜余裕ねえよ、も〜オレ。おまえのことになると。ぜんっぜん、うろたえちまって………みっともねぇけど…。……マジ死にそう…。ぜってぇ寿命縮んでるよ…1年くらい…」
「なに言ってる」

駄々っ子みたいにバタバタ喚きながら、まだ潰れてるコイツのアタマを…コツン、と指で弾いてやったら、
手を…つかまえてきて…
自分の頬に押しつけてきた。

いつもより、少し、冷たい気がする…

…タカオの…肌や体温や…吐く息までが、じかに伝わって……

コイツの…動揺だの想いだのが、みんな、そこから流れ込んでくるようだった…

そんなに…
オレは…自分が他人に想われる事があるなんて……今まで考えたことがなかったから…
だって、そうだ…善いことなんて、ほとんどしてきた憶えがないし…
むしろ、逆だろう。
誰かに恨まれるようなことばかり、数多く…破壊や、裏切り…
むろん、それは…オレはオレなりに一生懸命だった結果だと、言い訳するのは可能だが、

ただ…オレは…
あまり……おまえの役には立ってこなかったから……

……そんな資格は…無い気もしたし…

どう受けとればいいのか…なんと言えばいいのか…こんな時は…よく…わからない…

オレは…ずっと独りで、
これからも、独りで…
そうやって、いつか死ぬまで、たったひとりで歩いてゆくしかないんだと…

そういう生き方しか出来ないと、固く信じていたし…
それが…時々は辛いと、思わなくもなかったが…そういう自分は……弱いから、いけないのだと、切り捨ててきた。

オレが…どこにも帰れなくなったのも…オレが、自分でやったことだ…。

愛情に頼るなんて…しょせん幻をアテにするようなものだと…オレは、本気で信じていたし
たとえ、そんなものが…この世に在るとして…オレには……もう…そんなものは、関係無いと…思ってた…

それで、いい…と…思って…いた…


頭上で…プラタナスの新緑が、さやさや鳴ってる…。

「なぁ…忘れんなよ、カイ」
「ん?」

…つないだ手から…葉ずれの緑と…同じ匂いの…声がする…

「オレだけじゃねえよ」
「なにが」
「みんなも…いつだって心配してんだぜ?おまえのこと。じっちゃんだって、大転寺のおっちゃんだって…キョウジュや他のみんなも電話してくるたび、おまえが、どうしてるかって必ず聞いてくるし。…今日は具合い悪くねえか、熱出してねえのか。ちゃんと食ってるか、風邪ひかせてねえのか…とかさ…?」
「……」
「マックスにゃ、オレ、カイのために気が利かねえってクギ刺されっぱなしだし…。レイは…おまえのコト知ってるから…すげえ気にしてるよ。いつもオレ、言われてんだぜ?おまえに負担かけるコトすんなとか、おまえを起こすとき、背中さわんの、絶対ぇ気をつけろとか。わかってるよ大丈夫だよ、ってえのに、おまえは雑で乱暴だからってさ…もォマジメに突っ込まれてるよ…」
「……」
「レイは…ホント、おまえのこと、よく見てるし…マックスだってキョウジュだって、いつもおまえのこと考えてるんだぜ?みんな…おまえが、好きなんだよ」
「……」
「だから…おまえのコトも、…身体のコトも、すげぇ気にしてるよ…」
「………」

そういえば…

最初に倒れた日。
一度、木ノ宮がオレに薬を飲ませようとして…

タカオにベッドから抱き起こされたとき、自分でも、どうなんだと思うほど…物凄い悲鳴を上げてしまったことがあって…

焦った木ノ宮に、レイが、
『よせ、タカオ!!動かすな!!この痛がりようは…ふつうじゃない』
そう怒鳴ってるのが、朦朧としたオレにも、聞こえてた。
平気だ…と、すぐ言い返そうとしたが、ただでさえ怪しい意識が、あっというまに薄れて…
結局、オレは、うわごとみたいな口しか、きけなくて。
あの男は、そのときもう、オレの背中にコルセットがついてるのに気付いてたから…たぶん、そこで…わかったのかもしれない…
『タカオ、ちょっと来い。話がある』と聞こえたレイの声に、オレは…なんとなく慌てて木ノ宮を引き留めようとしたが。枕元に、不安な顔がたくさん集まってきたのも、朧げに、わかってはいたが…
後は、タカオが…
『うん、ごめんな、カイ。…言いてぇことは、よくわかったから。な?…もう、しゃべんな。おまえの困ることは何もしねえから。安心していいぜ?』
そう言って、オレの唯一、開いてる左目を…手でふさいだから…
真っ暗になって……それから…何も…わからなくなった…

あとはもう、意識が半分あるような無いような時間が、ずいぶん長く続いて…
それでも、タカオが、ずっとそばに居ることや、他の連中が心配して集まってることだけは…オレにも…よく…わかってた。

独りでは何も出来ないオレに…ずいぶん手伝って…
マックスやキョウジュは…だから黙っているだけで、薄々は知ってるのかもしれない…オレのコトも…


「とりあえず、こっちは大丈夫だよな〜」

ブロンズのベンチに座り直したタカオが、ポケットからピルケースを取り出して、オレの、今夜の薬をかぞえている。
部屋の隅に置いてあるパソコンの起動スイッチも入れられない奴が…毎日、まちがいなく、オレの予定を憶えてる。

もう…オレにだって、わかってる…。
ここが、オレの居場所なんだと、コイツも、コイツらも…みんなが…言ってる…。


それでも……

オレは…


………だから…


……オレ…は…









「おーい……めちゃめちゃ高そーな店だなァ…」

タカオが珍しく気後れした様子で、両手を突っ込んだジャケットの前を、ふくらませながら…
ほとんど真後ろに倒れそうなほど頭をそらして…梁のあたりを見上げた。

「だいじょーぶかよ」
「なにが」
「いろいろ。………ん〜服とか金とか…金とか…やっぱ金かなァ…」
「フン?きさまでも、人並みにTPOや…目の前の現実を考えることが、あるのか?」
「ンだよ〜大地と一緒にすんなよ。おまえ、オレだって日々、変わってんだよ。成長してるってかさ〜…てぇか、ハッキリ言って、払えそうにねぇぜ、…ここの夕飯代は〜」

タカオがキッパリ言うのは、かなり妥当だ。二人分なら…おそらく、ふつうの人間の月収くらいは請求される…。

「おまえ、カード持ってるだろ?」

あーっ!
と、また木ノ宮が、大声をあげた。

「…そーだ!!忘れてたぜ。おまえに返さなきゃ」
「それで払えばいい」
「って、おい…カイ〜待てよ!!」

両側を、太い石柱で囲まれた階段を、独り上ると、タカオが、慌てて追いかけてきた。

ゴシック建築の古いレストランだ。
白茶けたレンガ造りにツタがからんで、アーチ型の入口まで緑の葉でおおわれてる。
そこをくぐると、開かれた重い扉から、
リブヴォールトの向こうに広がる、うす暗い店内が見えている。
奥には年代もののカウンタバーがついていて…シックで重そうなイタリア製のシャンデリアの下には、どっかで見たような政治家や財閥の坊やたちが揃っている。

案内を待たずに、勝手に入っていったら、いっせいにこっちを見た。

場違いな客に驚いて…密かに値踏みしている。

親の後ろについてくことに何のギモンも感じない…それだけで一生涯、なにも困らない連中が、
全員で、オレたちを見ている。
薄皮に包んだような、一見、無難な表情の奥底で…一般の子供が来る場所じゃない、帰れ、と、全部の眼が言ってるんだが…

「げ……変なおっさんばっかり。なぁんか、暗ぇなァ〜雰囲気が〜」

こんなとき、レイ達ならば、正確に辺りを読んで、退くんだろうが…

「こんなトコに…マトモに食うモンなんて、あんのかよ?」

現実を見てるというから、少しは気圧されるのかと思ったら…タカオは違うところに目をつけていた…。

「たいへん失礼でございますが…」
二人で、真ん中に突っ立ってると、すぐに慇懃なウェイターが近付いてくる。
「こちら、ご予約のない方は…」
「え?入れねえの?」
「まあ、そう言うんだ。こいつらは。気にするな。おまえ、カード持ってるだろ。今、出せ」

ジーンズのポケットに手を突っ込んだ木ノ宮が、無造作にそれを取り出すと、
やはり、
相手の目の色が、変わった。
顔写真と名前の入った、鈍いゴールドのプラスチックカード一枚で、二重三重にバカ丁寧になった店中が、オレたちを2階へと案内していく。
この先は、VIP専用の個室だ。
たぶん…後で、料理長と支配人が、自分で挨拶にやってくる…。

「やっぱ…妙〜な店だなー」

タカオが、珍しく…警戒している。……おかしな奴だ。ここに入れると、たいていの奴は…ありがたがる。または畏縮する。基準以上のステータスがなければ来れない場所だ。その威圧感は、豪勢な調度、飾られた絵、テーブルの客たち…なんかにも溢れていて、周囲を圧倒している。
なのに木ノ宮は、それを…危険を察知した動物みたいに…嫌な顔をした。

そういうところは…あの男にも、よく似ている。

だから…
連れてきてみようと…思ったのかも…しれないが…

「カイ…」

赤い絨毯を踏みながら、
不意に、コイツが…
まるで、オレを何かから守るみたいに…手を握った。

「カイ?平気だぜ?」
「なにがだ」
「ん〜?…」
長い廊下を歩きながら、タカオが、ちょっと考え込むように上を向いた。…それから、
きょとんと笑った。
「なにかなぁ…わかんねぇけど…。けど、なにが起こっても…おまえには、オレが、ついてるんだからな。な!カイ?」

おかしな奴だ。と…思った…

…ほんとうに…

タカオがそう言って笑ったら…重苦しい店内の空気が、少し軽くなって…もしかすると本当に
いつもの…コイツの家の近所の商店街なんかと変わらない色に、塗り変わりそうな…錯覚さえした。


案内してきた男が、一番、奥にある、金で縁どられた白い大きな扉を開く。

「なんだ…こりゃ…」

だが、その木ノ宮すら、

一瞬、唖然とした。

落ちてきたら間違いなく死者が出る、巨大なシャンデリアがいくつもさがり…
白い天井や壁には、刻まれた金色の鷺が、いたるところに舞っている。部屋の奥には、彫金を施した模造の暖炉がしつらえてあり…
中央には、シャンデリアの光を映した、巨大な螺鈿のテーブル。陽の光を完全に遮る厚いカーテンは、濃い赤で、
並べられた椅子と同じように、金糸の細かな刺繍と房が縫い取られている。

もっとも…
タカオが凝然としてるのは…その周囲にずらりと飾られた、巨大な上半身と顔の群だ。

古い肖像画から、わりに新しい写真まで…レリーフや胸像もある。

「だっ……誰だよ??……この…」
「……」
「いかにもワルそーな、おっさん達…」

しかし、返ってきた声は、意外に…緊張感がなかった。

「人相、むちゃくちゃ悪ィぜ。も〜どっから見ても、全員、悪党ヅラだよなーこりゃあ…」

ぼけっと見上げてるのかと思ったら、一応、感想を考えていたらしい。白黒に蝶ネクタイの給仕が、内心、驚いている。そういうときでも、無表情を装うはずの奴らが、呆気にとられるほど、木ノ宮は思った通りのことしか言ってない。

「たしかに、悪党だ。一番、端のやつ…」
「お、このチョンマゲか!?」
「そいつは山師だ。食えずに夜逃げした農民たちを、だまして大勢つかまえ、鉱山に閉じ込めて…死人が出ようが、かまわず危険な場所で採掘させ…人件費ゼロで、ボロ儲けした」
「なんじゃそりゃ…やっぱヒデェ奴じゃねえか」

「しかし、次の奴は、もっと酷い。その金で、明治政府から鉱山と工場を買い取り…イギリス、アメリカ、ドイツ、ロシアと結んで貿易。拡大した採掘で…今度は、
産業廃棄物の硫酸を…キチンと処理すると莫大な金がかかるので、そのままバラまき…周囲の土地も人も再起不能になったが……それも政府にワイロを贈って懐柔し、裁判もゴマかして、……うまく続けた。……まぁ、5番目までが、その路線だ」
「……なんっだよ…それも…めちゃくちゃヒデェよ」

「ああ。だが、次からは、さらに酷い。すっかり政府と結託して、今度は、兵器作りだ。工場は朝鮮半島に作り…電力、鉄道も作ったが…そこも安全不備で、もっと多くの死者が出たが…自分たちさえ儲かれば、どうでもいい連中だ。基本的に、他人を、人間だとは、思っていない」

「だって、殺された人達は、どうなんだよ」

「残された家族には、はした金を握らせて黙らせた。もし金を受け取るなら告訴は取り下げろ、という2択をふっかけた。当時の裁判は、一般人が支払えないほど大金がかかるから、裁判で争っても勝ち目はないと脅しておいてだ。それでも、うるさい奴は、色んな方法で、握り潰した。当時、日本は、ずいぶん海外で戦争してたから…大量に戦艦をつくって軍におさめ、すべての権利を独占すれば、莫大な金が転がりこむ。その利潤にくらべたら、人の命など、どうでもいいと考える。むろん、売った兵器は…戦争でも大活躍だ」

「おいおい…ひっでえ連中だなァ…。けど、今は…どうなってんだよ…?」

「敗戦後、たしかに作るものは変わったが……まぁ、今も、あまり中味は変わらんな。GHQの財閥解体もうまく、くぐりぬけ、総会屋を使い……バブル時には土地転がしで儲けたし…しかし、それも最初だけで、バブル崩壊の数年前にはさっさとキリ上げてる。
…リベート、インサイダー取引、裏金作り、欠陥隠ぺい、リコール隠し……やはり死人が出てるが、おかまいなしだ。兵器だって、実は今も部分的には作ってる。核ミサイルに搭載するCCDのレンズとかな…」

「…………って……カイ、おまえ……」

木ノ宮が、一周して、とうとう最後に、それを、見つけた。

一番、大きな、巨大レリーフ。

天井近くから、偉そうにオレたちを見下ろす、オレの祖父、火渡宗一郎…。

「…カイ……こいつらって…おまえの……」

「ああ。全員、オレの、一族だ」

タカオは、しばらく黙っていた。

それから、

急に、飛びついてきて、オレをギュッと抱きしめた。

「そっか…」
「……木ノ宮?」
「けど…大丈夫だからな」
「なにがだ」

「それでも…大丈夫だよ…カイ…」
「……」
「おまえのことは、必ずオレが守るって…そう、前にも約束したんだ。その約束、どんなことがあっても、オレは、絶対、守るから…。だから、なにがあっても平気だぜ?」

いったい、何から…どう守るつもりなのか。
それさえ、わかりもしないくせに…

あの男だって…そんなことは出来ずに…一人で出て行ったのに…


タカオは、それでも、そう…言った…。




■to be continued■